紀里谷和明は、なぜ日本映画界から嫌われているのか? 「合理的」発言に見るメンタリティ
羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな芸能人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。
<今回の芸能人>
「監督同士が集まると、ケンカするんじゃねえかという懸念がある」紀里谷和明
『ボクらの時代』(フジテレビ系、11月22日放送)
『5時に夢中!』(TOKYO MX)から、『メレンゲの気持ち』(日本テレビ系)まで。映画監督・紀里谷和明がバラエティ番組に出まくっていると思ったら、新作映画『ラスト・ナイツ』の宣伝だった。紀里谷の監督デビュー作は2004年の『CASSHERN』だが、この作品は評論家から酷評の嵐を浴びた。
『しくじり先生 俺みたいになるな!!』(テレビ朝日系)での本人の分析によると、原因は「日本映画界に嫌われたから」。1本も映画を撮ったことがないのに、インタビューで「映画監督として成功しているのは、異業種の人ばかり」「PV(撮影監督)時代のスタッフを全員連れていった(映画界のスタッフを使わなかった)」「助監督7人クビ」などと語り、従来の映画界のしきたりを完全に無視したようだ。そして興行的には成功を収めたものの、次回作が撮れないという苦境に立たされ、その後、ハリウッドから声がかかるも、08年のリーマンショックで資金難に陥り計画が頓挫するなど、『ラスト・ナイツ』に至るまでの道は平たんではなかったという。
紀里谷は「日刊SPA!」で「作品はいわば僕の子供のようなもの」「親が嫌いだから、子供も嫌いと言われちゃうのはいやだ」と発言していたが、プロモーションとしてバラエティに積極的に出演することで、紀里谷本人のイメージを上げ、そこから映画に誘導する作戦を取っているように見える。
が、人間はそんなに簡単に変わるものではない、ということが表れていたのが、11月22日放送の『ボクらの時代』(フジテレビ系)である。『Love Letter』の岩井俊二、『愛のむきだし』の園子温との鼎談で、話題は「コワい日本映画界の常識」に及ぶ。
新人監督の言うことを技術スタッフが聞き入れないのは当たり前、スタッフの胸倉をつかんで言うことを聞かせることも珍しくなかったと、岩井は語る。紀里谷は「意味不明。それなら来るな」と怒りを露わにするが、岩井は「そこと戦えるかどうかは大事」、園は「当時は助監督が監督になるのが普通だったから、ぽっと出が監督やるっていっても、言うこと聞かないよね」と、相手に対して一定の理解も示した。
それに対し、ハリウッドは非常に“合理的”で、役者はもちろん、カメラマンといったスタッフも全員オーディションがあり、結果を出せなければ、彼らもどんどんクビを切られる。その分、彼らは変な足の引っ張り合いをしないそうで、ハリウッドは「プロ意識の高い世界」と紀里谷は解説する。