「婦人公論」ひとり暮らし特集に響く、「モラハラ夫の呪縛」と「解放後」に苦しむ女たちの悲鳴
「婦人公論」(中央公論新社)今号の特集は「備えて安心『ひとりの暮らし』シミュレーション」です。特集に入る前に、巻頭の連載「うるさくてもシズカ」から見たいと思います。こちらは脚本家・大石静のエッセイ。今一緒に仕事をしている33歳の有能プロデューサーを見て、自分が結婚したとき夫もまた33歳だったことを思い出したという大石。かつて舞台監督として華やかにイキイキと仕事をしていた夫も、すでにリタイア。「ボーッとソファーで居眠りしている横顔などを見ると、私はなぜこの人と結婚したんだろう? と訳がわからなくなる」「別に嫌う理由はないけれど、どこもステキじゃない」。
これは多くの中年夫婦がぶち当たる壁ではないでしょうか。浮気、借金、DV……そんな事件が起きたわけではないけど、ただ心の水田から少しずつ愛情という水が引いていくような感覚。どうして結婚したのか、その記憶だけが頭からすっぽり抜け落ちてしまったような「訳のわからなさ」。そこでふとくだんのプロデューサーの活躍を目の当たりにして、「夫が輝かしかった若き日が、リアルに私の心によみがえった」のだそう。「人生は無駄な時間、辛い時間のほうが圧倒的に長いけれど、ステキな瞬間もあったのだな……と」。女たちが「ひとりの暮らし」をシミュレーションしたとき、思い返すのは「無駄な時間」への後悔か、「ステキな瞬間」の余韻か。
<トピックス>
◎連載 大石静「うるさくてもシズカ」
◎特集 備えて安心「ひとりの暮らし」シミュレーション
◎夫・佐々淳行との別居で私は命を吹き返した
■「側室」っていう言葉がマッチョ男性を昇天させる
「下流老人」という言葉がにわかに注目を浴びだしたりと、老後の生活への不安は日ごとに増す「婦人公論」世代。特集のリードには「その日が突然やってきても経済的、精神的に困らないよういまから少しずつ準備を始めませんか?」とあります。「独居の『貧困』『介護』『孤立』3大リスクを回避するには」や「老後破産は意外とそばに。今ある貯金、何歳で底をつく」など現実的なおカネ記事もありますが、この特集が重きを置いているのはやはり“長年連れ添った夫の処遇”について。
まず登場するのは東大安田講堂事件やよど号ハイジャック事件、あさま山荘事件などを現場で指揮し、初代内閣安全保障室長を務めた佐々淳行氏の妻、幸子氏。タイトルもズバリ「夫・佐々淳行との別居で私は命を吹き返した」。現在佐々は介護付き有料老人ホームへ入居。糖尿病で目を悪くした佐々の仕事のサポートから今日見るテレビ番組のリサーチまで、細々と世話をやいている様子。それならばなぜ別居を……とお思いになる方もいらっしゃるでしょうが、幸子氏自身の持病の悪化、そして「夫による私への“非常に思いやりのない行為”が明らかになりました。今までも彼の“ビョーキ”や“ご趣味”はさんざん我慢してきたけれど、また裏切られた。仕事でも介護でも、私はこんなに頑張っているのに、なぜ……と、ひどくがっくりきてしまったのです」。そして「私は家を出ます。どなたか“別の方”にお世話を頼めばいいでしょう」と突然の家出宣言。佐々氏から「僕がホームに行くから、あなたは家にいて静養してくれ」と折衝案が出されたそうです。