カルチャー
『女子アナという生き方~就活から勤務実態、結婚事情まで』トークショー

「女子アナ」はなぜ欲深い? カトパンや水卜アナという“オンナ”の作り方と必要特性

2015/10/31 19:00
左から霜田明寛氏、佐々木真奈美氏

 学生時代のホステスバイト歴が原因で日本テレビの内定を一時的に取り消された笹崎里菜アナウンサーは、日テレに対する勝訴を経て和解、今年の4月に無事入社した。水商売に対する偏見や、日テレが主張した「清廉性」の意味合いなど様々な議論が起こったが、何よりも多くの人が感じたことは、彼女のアナウンサー職への確固たる信念だったのではないだろうか。バラエティ番組で件のことをいじられても笑顔で受け答えするなど、入社して半年経った彼女からは、誰からどう思われようと気にしない清々しさやあこがれの職業に就けたことへの喜びがひしひしと伝わってくる。

 今も昔もアナウンサーになりたい若い女性はとても多い。しかし、テレビ局のアナウンサー試験は何千人もが受けて数人しか受からないというかなりの狭き門。最近では民放キー局(テレビ朝日、TBSなどの主要放送局)の女子アナというと、当たり前のように大学のミスキャンパス出身者、モデル経験者が揃っていて、芸能人と相違ない女性が多い印象だ。そしてその容姿で手に入れた花形職業は、華々しい恋愛や結婚にも直結しているように見受けられる。そんな「女子アナ」になるための就職活動は、群を抜いて厳しいはずだ。

 先日、就活アドバイザーであり文筆家の霜田明寛氏による『面接で泣いていた落ちこぼれ就活生が半年でテレビの女子アナに内定した理由』(日経BP社)が刊行された。霜田氏は早稲田大学アナウンス研究会出身で、3年間就職活動を続けてアナウンサーを目指すも挫折。その後は自身の経験をもとに就活アドバイザーとしてアナウンサー志望者への指導を数多くしており、4年間で30人以上のテレビ局アナウンサー内定者を輩出している。本書は、テレビ局に限らず、あらゆる企業における就職活動に役立つよう、霜田氏が今まで相談に乗ってきた学生のエピソードを元に、面接での話し方や思いの伝え方、失敗を成功に変えるメソッドなどを綴った就活本となっている。

■フリー女子アナが語る実情
 本書の刊行を記念して先日、下北沢B&Bにてトークイベント「霜田明寛×佐々木真奈美×シエ藤『女子アナという生き方~就活から勤務実態、結婚事情まで』」が行われた。ゲストは2010年にテレビ朝日系列の山形テレビに入社し、現在はTBSテレビが運営するニュース専門チャンネル「TBSニュースバード」などで活躍するフリーアナウンサーの佐々木真奈美氏、聞き手はライターで芸能研究家のシエ藤氏。

 会場には女子アナ志望者と思しき若い女性や、知人が女子アナであったり、女子アナファンだったりする男性など、幅広い層の観客が集まっていた。イベントは本書の内容を掘り下げつつ、女子アナ就職のためのエントリーシートや面接対策の話、霜田氏や佐々木氏が出会ってきた女子アナという仕事にあこがれる志望者たちの素顔、さらには、売れっ子女子アナの共通点などまで深く切り込んでいった。

 冒頭は佐々木氏が現在に至るまでの道のりについて。「就活で内定をもらったのが、吹雪の中で走れる体力と気力を買われた山形テレビだった」と語る。そしてカメラ操作や記者、現場、映像編集など、我々が想像する“女子アナの仕事”以外のタスクもこなし、上司の反応を窺いつつコミュニケーションを取りながら、東日本大震災の取材も自ら懇願して出向くなどして着実にキャリアを積み、こうして全国区のフリーアナになった。

 この話を聞いて霜田氏は、「大事なのは他者への想像力」だと言う。「一緒に働きたい、仕事を任せたいと思う人に対しては、一緒に飲みに行きたいという思いもある。女子アナに必要なのは媚ではなく、上司である30代後半~50代男性との上手な距離感、コミュニケーションから自己アピールにどうつなげていくかが大事」と佐々木氏の地方局からの逆転について敬意を表しつつ、解説をした。

 また、恋愛についても話が及ぶ。佐々木氏は「野球選手と付き合うなんて、全女子アナの中で1%いるかいないかです!」とその実情を語りつつ、現実的には最近のテレビ朝日の加藤真輝子アナウンサーの結婚を例に挙げ「一緒に朝から晩までロケをして、愚痴も言い合えるし、チラっと見える腕の筋肉にもときめきがち」(佐々木氏)という理由でカメラマンとは可能性が高いと話す。これを聞いた霜田氏とシエ氏は、「女子アナと結婚したければIT社長やスポーツ選手にならなくても、制作会社のカメラマンになれば良いんですね!」と興奮気味に声を合わせ、会場にいた男性からは笑いと納得の声が漏れていた。

■女子アナは完璧さより“素人感”がキー

『面接で泣いていた落ちこぼれ就活生が半年でテレビの女子アナに内定した理由』(日経BP)

 そして佐々木氏は、就活時期に、とあるキー局のセミナーで同グループだった、現・日本テレビの水卜麻美アナとセミナー後にお茶した時の話を披露。セミナーとは実際の番組のセット内で原稿を読んだり、ベテランアナから指導を受けたりする体験型講習。セミナーの中には、通過するために写真が4枚(!)とエントリーシートによる書類審査が必要で、そこには自分をどの“位置”に置いているか問うために「自分と似ている芸能人は?」という質問もあるという。大抵は、今までに数度言われたことがある、まあまあ可愛いと思われているタレントの名前を挙げ、当たり障りのない回答をする人が多い中、水卜アナはそこに「柳原可奈子」と書いていたそうだ。そのエントリーシートを見た時に、佐々木氏は「この回答だけでいろいろな話のきっかけになり、しかもほかとは違う個性もアピールできる。この子は絶対女子アナになるな」と感じたという。女子アナになっただけでなく、人気ナンバーワンに上り詰めた水卜アナについて、霜田氏の「彼女の登場により女子アナ界にも自虐ブームの波が起き始めた」とその功績を述べた。

 同じようにフジテレビの加藤綾子アナの人気について、佐々木氏は「アナウンサーとしてのスキルはもちろん、まわしの功さ、所々で嫌味っぽくならずに自分を出す絶妙さ」と、霜田氏は「『俺らでもいけるかも』と思わせる安心感、親しみやすさ」と語る。加藤アナは過去には有吉弘行氏から「3割引の女」というあだ名をつけられているが、「女子アナは強くて100点満点な完璧すぎる女性ではなれない側面もある。芯があるけどそこまで強気すぎないぐらいが大事」と、全ての民放キー局のアナウンサー試験に落ちたことで知られるタレントのホラン千秋を例に出し、あくまでテレビと一般視聴者のつなぎ役である彼女たちの良い具合の“素人感”についても触れた。

 また霜田氏は「女子アナに“なりたい”人とアナウンスメントを“やりたい”人は似て非なる」と話す。それは女子アナという衣を纏えることによって得られる今後の人生の充実さに価値を見出しているか、視聴者に情報を伝える職種を全うしたいかという違いだ。佐々木氏は、就活時に出会った女子アナ志望者たちもハッキリこの2つのタイプに分かれていたと言うが、「地方局で泥臭く頑張るのも、キー局で華やかに人前に出るのも、アナウンスメント業務を目的とするのも、女子アナを通過点と捉えてあこがれの結婚を見据えるのも、それぞれ女の子たちの人生の選択なんですよね」と、ただ単にチヤホヤされたい云々ではなく、自分の人生をどうしたいのかを見つめることの大切さを語った。

 霜田氏は総じて女子アナになるために必要な要素として、「自分への思考量の多さ」だと語る。自分の人生をどうしたいのかを真剣に考えていて常に自分を語る言葉を持っている。自分のことが大好きな女性は、総じてその思考量も多くなる傾向にあるという。自分の容姿やキャラを客観的に捉え、番組の引き立て役や情報の伝え手でありつつも女優やモデルのように常に見られることを自覚し、他者とのコミュニケーションを大事にしながら自分の手に入れたい目標や人生に向かって邁進する。今回のトークを通じて、女子アナというのが単なる職業ではなく、そんなバランス力に長けたクレバーな女性たちの生き方なのだと強く感じた。
(石狩ジュンコ)

最終更新:2015/10/31 19:00
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