『あなたのことはそれほど』いくえみ綾さんに聞く、「2番目に好きな男と結婚した女」が持つ不安の正体
■「いくえみ男子」はどうやって生まれる?
――昨年は「マーガレット」(集英社)50周年、今年は「りぼん」(同)と「なかよし」(講談社)が60周年ということもあり、少女マンガがあらためて見直されています。いくえみさんは少女マンガの王道「別冊マーガレット」(集英社)でデビューを果たし、「別マ」で多くの作品を生み出してらっしゃいますが、少女マンガを取り巻く環境や流れをどう見ていますか?
いくえみ 発表する雑誌やネットなど、露出は多くなったと思いますが、基本的に変わってないのではと。
――『あなたのことはそれほど』は20代の読者が多い「FEEL YOUNG」(祥伝社)で掲載していますが、その世代に向けて描きたいテーマと、少女マンガ誌で描くテーマは異なりますか?
いくえみ テーマというものを昔からちゃんと意識して描いたことがなく、結局できてからの後付けになるし、作品に明確なテーマなぞなくても面白けりゃいいやと思うので、わりとどうでもいいです。
――いくえみさんはキャリアの中で一貫して「恋愛マンガ」を描かれています。多くの作品は主人公である少女と運命の相手との「永遠」を願う物語ですが、いくえみさんは『あなたのことはそれほど』のようにW不倫や、『潔く柔く』のように主要キャラクターの死から物語が展開する作品など、苦みや痛みを伴った作品を描かれています。これはどういった思いからなのでしょうか?
いくえみ 恋愛マンガをいっぱい描いといてこんなこと言うのもなんですが、多分、恋愛自体にそれほど興味がなくて、ドキドキがどうの永遠がどうのというよりも、ネームを考えてマンガができ上がるのが好きだったんです。それで言うなら「運命の相手との永遠を願う」物語も大いに有りだし、今までも描いたような気もします。
――いくえみさんが描かれる男性キャラクターは「いくえみ男子」と呼ばれ、ファンブックが発売されるほどの人気を誇ります。いくえみ男子は非常に魅力的なキャラが多いのですが、浮気をしたり、自己中心的な性格だったり、優柔不断が過ぎたりとリアルな欲望を持っていて、時に読者に恋愛の残酷さを知らしめる存在でもあります。男性キャラクターを描くときに、意図していることはあるのでしょうか。
いくえみ ほどほどのリアルに夢をプラス。
――最後に、「恋愛マンガ」を描く楽しさや醍醐味を教えてください。
いくえみ 「恋愛マンガ」と言われると上記のような理由からこそばゆくなるのですが、「マンガ」の楽しさや醍醐味は、「できないできないなんだこれ」と思ってたネームが進めているうちにある時点で急に目覚ましく発展し、アレとコレが繋がってひとつの結末へと導かれて、最後のコマにセリフを入れて満足できた瞬間、それがすべてです。絵はオマケ。脳内にある映像をこれから肉体労働で形にしなきゃならないのが一番つらい……。しかも脳内の通りにできない……みんなこれからマンガはネームで発表しませんか? だめですか? だめですよね。ありがとうございました、がんばります。
(取材・文=編集部)