カルチャー
[女性誌速攻レビュー]「婦人公論」10月13日号

「婦人公論」“親の老い”特集で、40代~50代が優等生発言を連発する理由

2015/10/01 20:00

 子への愛情の注ぎ方が自分勝手で、「息子を溺愛している自分が好き」だった佐野。そんな母親から逃れようとしても、結局は広瀬氏のところにやってきてしまう。「これが恋愛だったら『はい、さようなら』って別れておしまいだけれど、親だからそうはいかないじゃないですか」。その言葉には深いあきらめとともに、それと同じくらい親子の情をあきらめきれない、家族の複雑な思いを感じます。やがて佐野はがんになり、広瀬氏は今まで以上に激しい感情をぶつけられるように。そして「最後まで、わがままで、意地っ張りなままだった。あの人らしく、いばりながら死んでいきました」。

 病気になっても年老いても変わらぬ態度で子どもに接していた結果、「あの人が死んだとき、『悲しい』とか『寂しい』とか思わなかった(中略)ちょっと不謹慎かもしれないけれど、晴れ晴れした」「これであの人から解放されて自分だけの人生を送れると思ったら、翼が生えたみたいに自由を感じた」という広瀬氏。このインタビューから垣間見える佐野はお世辞にもいい母親とは言えないでしょう。しかしずっと「親」ではあったのかもしれないなと思いました。良い親だと思われようともせず、それこそ「感謝」もなしにいなくなり、残されたものに解放感だけを与えるなんて、親としては理想の死に様なのかも。年老いて、感情のコントロールが難しくなって、むき出しの人間として付き合わなければならなくなったとき、本当の親子関係がスタートするのかもしれません。

■規範と理想の中でもがき苦しむ40代、50代の介護

 誰しもが理想の「親」「子」像があるもの。「私の晩年、子どもとの理想の関係は」では、介護を経験した5人の著名人が、「将来、歳をとったら子どもの世話になりたいか」「どのような晩年が理想か」という2つの質問に答えています。

 対照的だったのは、「子育てと並行して20年間、義母の介護を行う。13年の在宅介護の後、義母は施設に入所。ほぼ毎日通った」タレントの荒木由美子と、「両親の訃報は旅先で聞いたが、義父母の最期を看取る。また、伯父夫妻の老後を、自身が娘代わりとなって面倒をみた」作家の桐島洋子。荒木は「年をとったからといって世話になろうとは思いません。まずは自分のことは自分でできる、自立した親でいたいと思います」と答えたのに対し、桐島は「人生は持ち回りです。無力な赤ん坊を一生懸命一人前の大人に育て上げたのですから、老いや病で力を失った親を、今度は子どもが支援するのは当然のこと。私もいつかは遠慮なく子どもたちの世話になるつもりで、今からそう言い渡してあります」とキッパリ。ちなみにここに登場する著名人は桐島以外全員が「子どもの世話になりたくない」と回答していました。

 桐島のように“育ててもらったのだから親の面倒をみるのは当たり前”と躊躇なく言えるのは、1937年生まれという年代からくるものか。今の40代、50代は“親の面倒は子どもが見るのが当たり前”という従来の規範と、“子どもの人生は子どものもの”という価値観がぶつかり合い、なかなか本音が言いづらい世代とも言えましょう。だからこそ“親の面倒は私がみます。私の面倒も私がみます”という優等生な回答が多くなるのではないでしょうか。

 「読者体験手記 娘に迷惑をかけないつもりが」にこんな体験談がありました。子どもの頃から褒めてもらえなかった恨み辛みを、40過ぎて母親にぶつけるようになった女性。なんでも完璧にこなし「あんたたちの世話にはならない」が口癖だった母親が病に倒れ、初めて娘に「面倒みてよ」と懇願したのだそう。「それまで私に頼ったことも、謝ったこともない母です。子どもの頃からの恨みをぶつけながら、母が頭を下げる姿を一度は見たいと心の奥底で願っていたはずなのに、実際にその姿を目にすると、襲ってきたのは悲しみだけ」。老いと病が変える親子の関係。憎い親のまま死ぬのか、弱みをさらけ出して愛を乞うのか。どちらにせよ、家族という現実社会では理想を貫く方が難しそうです。
(西澤千央)

最終更新:2015/10/01 20:00
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