「鬱陶しい40男」はなぜ生まれる? 女性関係、職場で疎まれる“昭和的男らしさ”のズレ
『<40男>はなぜ嫌われるか』(イースト・プレス)
さらに「平成的男らしさを持つ若い男性を見て『最近はナヨナヨした男が増えた』と嘆くおじさんは、経済的観点から求められている人材を理解していないだけ」と一刀両断。これには田中氏も賛同し、「若い男性はちゃんと社会に適用しているのに、自分の価値観が時代に取り残されていることに気付かないおじさんたちが、ハラスメントを理解せずに他人に迷惑をかけている」と女性へのセクハラ、社内でのパワハラの根源は「昭和的男らしさ」だと厳しく指摘した。田中氏はこの2つの男らしさの狭間にいるのが40男だと言う。学生時代までにかくあるべきと植え付けられた男性像と、現代に求められている男性像の乖離があり、どちらにもうまく適合できないジレンマがある。
また、「平成的男らしさ」は家庭での家事育児においても必要不可欠になってくると両氏は指摘。上司が「平成的男らしさ」を持つのであれば、男性が育児休暇も取りやすくなり、パートナーである女性の働き方も多様性が見いだせる。水無田氏は「全ての人の多様性を推し進めるためには、税制や社会保障制度、管理評価システムなど考えるべきことがたくさんあるのに、日本は女性の生き方についてのみ議論してきた」と話す。男性については多様な生き方は認められず、「ただ働く」という前提があるだけだった。田中氏も「男性が働き方ではなく生き方を組み直さなければ、女性や社会全体も大変になる。自分たちが社会を担い、管理する年齢や立場に来ている今だからこそ、僕らで昭和的男らしさを終わらせたい」と熱く語った。
■異性関係における問題点
さらに、若い女性にモテたいという中年男性の意識についても話が及ぶ。水無田氏は「“今、おじさんはモテる!”なんて雑誌でもてはやされているが、データで見ても年の差婚自体は減っている。今はむしろ、恋愛や結婚対象は同年齢層が好まれる傾向が強まっている。若い女性は若い男性が、若い男性は若い女性が好きなのに、若い女性に目を向けているのはおじさんだけ」と辛らつにコメント。木嶋佳苗が交際男性を落とす時に靴下まで履かせてあげたという話を引き合いに出し、「女性にベタベタ触られるような世話の焼かれ方に喜ぶのは中年男だけ」とも批判した。
田中氏も、「女子大生に40歳前後の男性の印象を聞いたところ、“大沢たかおだったら合格”という答えが出てきた。あのレベルでさえ“合格”というボーダーラインなだけで積極的に選ぶわけでもない。普通の40男は相手にされていないのに、一部の女性メディアに躍らされて瞬間的に優越感に浸って気持ちよくなってはダメ」と、自分の自覚と世間からのイメージの大幅なズレを認識しなければいけない点を語ると、会場からは笑いと納得の声が漏れていた。
本書は、研究者である田中氏が上から目線で40男たちの未来を憂えているわけでは決してない。イベント最後に「ジェンダー学って、自己反省の学問ですよね」と語ったように、今年40歳になった氏の自戒の念も十分に込められている。女性や社会が大きく変わっているのに対して、自分たち40男はどう変わらなくてはいけないのか。傷の痛みを共有しつつも、感傷に浸って現実から目を背けてはいけない。まだ自分を見直せる年齢である40男が、これからの人生をラクにし、自分だけでなく女性や社会をも幸せにするために歩む道とは何か。「自分の人生を考える余地があまりにもなかった40男たちに、生き方を見直してほしい。一緒に頑張ろう」と語る田中氏のように、彼ら40男が現在の生きづらさを乗り越えられるよう、厳しくも優しい目線で見ていかなくてはいけないのかもしれない。
(石狩ジュンコ)