“男性のAV女優”大島薫が語るセックス観に感じた、“ボクらしく”という自由
■大島薫が目指す“アイコン化”
そして後半は、ウイカ氏も交えた3人でのトーク。本書を読んだ感想を聞かれたウイカ氏は「私は女だし、男になりたいとも思ってもいないのに理解できる部分が多くて、グっとこみ上げるものがあった」と、率直な感想を述べた。同じ大阪育ちで、大島氏は89年、ウイカ氏は90年生まれと同年代であるだけでなく、BiS時代からマネジメント的な目線でアイドルの自分を見ていたというウイカ氏は、自分自身を「アイコン化したい」という大島氏について、「生きてきた全てが“大島薫”という作品を作り上げている強みを感じました。これはどんなアイドルも敵わないですよ!」と、興奮気味にシンパシーとあこがれを訴えた。
大島氏は性自認が男性であるため、身も心も女性化を目指す、いわゆる「ニューハーフ」とは異なる。また、メディアで多用される「オネエ」にも懐疑的であり、意識的にそうした扱いでメディアに出ることはしていない。彼は「女性になりたいゲイの男性」ではなく、「女装が好きなバイセクシャルな男性」という存在であり、それを表現し、確固たるアイコンになろうとしているのだ。
またウイカ氏は本書を通して見えた、大島氏の人生という“波の乗り方”についても言及。「私たち世代は、流れてきた波にどうバランス良く乗るか、そして次にいいものが来たときにどう飛び乗るかが大事。薫さんはそういう流れに乗るのがすごく上手」と、BiS解散後に来たBILLIE IDLE(R)のオファーを二つ返事で承諾した自身と照らし合わせつつ大島氏を分析。大島氏もその意見には、「雑誌や媒体のインタビューで『AVを引退し、これからどうするんですか?』って何度も聞かれてすごく困りました。単にAV女優のレッテルを捨てて次に行くだけなのに」と賛同する。どうするも何も、AV出演は“大島薫”のアイコン化計画の途中経過なだけなのだ。
『ボクらしく。』の中で、本名や過去の写真なども包み隠さず公開している大島氏。実在しない虚構の自分をゼロから“作り上げる”作業ではなく、今までの生き方を肯定した上で、世の中に自分を“認識させよう”としているのではないだろうか。形や実態が見えにくいマイノリティの存在も、多くの人の目に映り、心に響き、頭で理解されたとき、人々に新しい価値観として認識される。
自らを規範や概念に縛りつけず、荒れ狂う人生の波も飲み込まれるのではなく乗りこなす。男/女、可愛い/格好良い、エロい/エロくないといった概念や感覚さえも“ボクらしく”=“自由に”行き来する。彼を見た人が何を感じ、どんな思いが巡ろうとそれが個々人の正解なのだろう。
(石狩ジュンコ)