カルチャー
[サイジョの本棚]

向田邦子×水羊羹、色川武大×氷いちご。作家の偏愛がおかしくも小気味よい『ひんやりと、甘味 』

2015/08/09 21:00

――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン(サイ女)読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します!

 旅行や帰省など、移動中に休み休み読む本を探すことも多いこの季節。一篇一篇が短く気軽に楽しめ、かつ意外な世界を広げてくれる4冊を紹介したい。

■『ひんやりと、甘味』(河出書房新社)

 阿川佐和子、池波正太郎、立川談志、鎌田慧、安野モヨコ、酒井順子、東海林さだお、川上弘美――小説家に限らず、エッセイにもファンの多い41人の、冷たい甘味にまつわる短編エッセイだけを集めたアンソロジー。

 食べるときの照明やBGMなどの理想的なシチュエーションを語るほど水羊羹を愛する一方で、「水っぽい水羊羹は始末に悪い」「固い水羊羹。これも下品でいけません」「水羊羹を四つ食った、なんて威張るのは馬鹿です」といった小気味よい持論が続く向田邦子の「水羊羹」、“昔ながらの氷いちご”を求めて夏の京都を歩き回り愚痴をこぼし続ける姿が、なぜか笑いを誘う色川武大の「氷を探して何百里」など、短いがそれぞれ味わいの異なる掌編が収められている。

 パリのコルドン・ブルーで作られるアイスクリームから、コンビニで買うガリガリ君まで、取り上げられる甘味もさまざま。暑い暑い今年の夏が終わらないうちに、気になる作家と冷たい甘味を一緒につまみ食いしてみては?

■『背中の記憶』(長島有里枝、講談社文庫)

 『ひんやりと、甘味』で多種多様な「思い出の甘味」を読み続けると、自然と「自分の思い出の甘味」も思い出したくなる。同じように、読み進めるうちに自分の記憶が刺激され、帰省したくてもできない子ども時代に一瞬トリップすることができる1冊が『背中の記憶』だ。

 木村伊兵衛写真賞を受賞した写真家が、主に自身の子ども時代を回想したエッセイ。建物や大人が今よりずっと大きく見え、草花や地面が近くにあった子どもの視界でつづられる本作は、著者の思い出の風景が映像のように緻密に再現されると同時に、読者自身の子どもの頃の記憶も呼び起こす。

 大人に言えない友達との秘密の遊び、疎ましくも振りほどけない弟の手、祖母の背中越しに見たテレビ。著者にとって、そして多くの読者にとっても、もう自分の記憶の中にしか存在しない幼い頃の景色や家族の姿。もうすっかり忘れてしまったと思っているだけで、心の奥底に眠らせていた記憶が驚くほどリアルに蘇ってくるだろう。

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