トークイベント「すべての女はスカーレット・オハラである ~『風と共に去りぬ』に愛あるツッコミを入れる~」

世界中の女からツッコまれ、愛され続けるヒロイン“スカーレット・オハラ”という生き方

2015/07/25 19:00
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左から酒井順子氏、中島京子氏、鴻巣友季子氏

 1936年に出版され、いまなお世界で聖書の次に読まれているベストセラーと言われるマーガレット・ミッチェル著『風と共に去りぬ』。奴隷制が残る1860年代のアメリカ南部を舞台に、大農園生まれで美しいが気性の激しいスカーレット・オハラが愛や戦争に翻弄されながらも懸命に生きていく姿を、彼女を取り巻く人々とともに描いた作品だ。出版から3年後に公開された映画も、アカデミー賞で9部門を受賞し、いわばレジェンドとして現代に語り継がれている長編時代小説である。

 同作の新訳がこのほど翻訳家の鴻巣友季子氏によって手掛けられ、全5巻が新潮文庫から刊行された。その刊行を記念して6月30日、作家の酒井順子氏と中島京子氏を迎えた三者によるトークイベント「すべての女はスカーレット・オハラである ~『風と共に去りぬ』に愛あるツッコミを入れる~」が行われた。会場である神楽坂「la kagu」には、30~40代の多くの女性が詰めかけ、本作の時代を超えてもなお衰えない人気ぶりを感じさせた。

 登壇後にまず挨拶をした鴻巣氏は、今回の翻訳について、今までの仕事とは異なり、登場人物たちに惚れ込んでしまったのだという。そしてとにかく一度この物語に入ると抜け出せなくなるように心が持っていかれると評し、「巡り会えた喜び」だと口にした。中島氏が、「普通の女の子の枠に入らないスカーレットが、勘違いをしながら失恋をずっと引きずり続ける失恋小説」と表現すると、酒井氏も「とにかく『死ねばいいのに』を繰り返す、スカーレットの性格の悪さに感動さえしました。規律が厳しい時代にこんな人間がいたんだと、なんだかホッとしました」と笑いを誘いながらも、新訳で作品の素晴らしさをあらためて実感したのだという。

 本作のヒロイン・スカーレットは大富豪の令嬢で、己の欲望にまっすぐで極端なほどのエゴイスト。ずっと思いを寄せているアシュリーが献身的で純真なメラニーと結婚すると、嫉妬に狂い、あてつけにメラニーの兄チャールズと結婚するなど、随所にその深すぎる情念と女の恐ろしさを見せつけてくれるのだ。しかし一方で、一般的な女性と大幅にズレている物事の考え方や、自己流恋愛テクニックを失敗しても使い続ける不器用さには愛らしささえ感じる人も多いはずだ。


『風と共に去りぬ 第1巻 (新潮文庫)』