「私の顔は他人のもの」整形女性の絶望に見いだす、コンプレックスにあがく人への救いとは?
2010年、クロス・マーケティングが行った「美容整形に関する意識調査」で、18~39歳の女性のうち、美容整形をしたことのある人は11.3%だったという。データ上では、街中を歩く若い女性10人に1人は整形済みという事実を、あなたはどんな感情で受け止めるだろうか。そして一体女性たちは整形を通して、自分の顔に何を求めているのだろうか。
5月、ライターの北条かや氏が、最新の美容整形の市場規模やプチ整形ブーム、整形経験者女性たちへのインタビューなどを通し、旧態依然な整形への批判や偏見に一石を投じる考察を展開した新書『整形した女は幸せになっているのか』(星海社新書)を上梓した。今回、北条氏にインタビューを行い、テレビでは取り上げられない整形と現代女性との距離感、本書執筆で見えてきた彼女自身の整形観などを伺った。
――『整形した女は幸せになっているのか』というタイトルがとても扇情的ですが、この本で伝えたかったことはなんでしょうか?
北条かや氏(以下、北条) 「美容整形をしても幸せになれない」という意味合いの本に取られそうで、著者としては実はこのタイトルを気に入っていないんですが(笑)、担当編集の方と話をして「議論を喚起したい」ということでこうなりました。中を読んでもらえれば、私が「整形した女が幸せになっているわけがない」という考えではないというのは、わかってもらえると思います。
メディアではいまだに「美容整形は是か非か」という二極の議論しかしないですよね。整形する女性に対して、かつての人気番組『ビューティー・コロシアム』(フジテレビ系)のように、そもそもその女性自身に、整形せざるを得ない何かしらの問題があるというストーリーを付けたり、また「男にモテたいだけ」「美醜に囚われた哀れな女」といった偏見を持つ人も多い。で、最終的に「なんだかんだ言って、整形はしない方がいいよね」という結論に行こうとする。この本では、整形した女性が幸せになっているのかいないのかの結論を出したいわけではなく、そういう議論を深めることをしない現状に、くさびを打ち込みたかったんです。それに、現実の若い女の子って、整形に関して、もっと先を行っているよという実情も伝えたいと思いました。
――ネット上では、「芸能人の整形疑惑」に対して、条件反射的に批判をする人や変な目を向ける人も多いですよね。
北条 他人の容姿を消費して、エンタメとして楽しんでいるんだと思います。自分の顔は晒さず棚に上げ、美容整形によって容姿という万人の目につくところが「異形」になってしまった女性をバッシングして自分が上に立ちたい。思考停止の状態で、相手の顔のことを指摘できるのは、すごく愉快なんでしょう。
■美容整形をするメインの理由は「モテ」じゃない
――たとえ成功しても、「そもそも親からもらった体に傷をつけるなんて最低」という考えもありますよね。
北条 美というものが絶対的な力を持っているから、批判するしかないんだと思います。美が自分の存在を脅かす脅威のように感じられるから、キレイになったとしても整形をした時点で「罪だ」「ズルい」として見下したいのではないでしょうか。
美が脅威であるというのは、ご自身の美容整形体験をつづった書籍を出されている中村うさぎさんも「エロス権力」という言葉で表現しています。昔は美が貴族階級にだけ許されていたものなのに、近代以降はそれが誰でも獲得できるものになりましたよね。昔は家柄重視だった結婚が、みんな平等で恋愛もできるようになったことで女性は選ばれる性になり、もちろんそこには見た目が重要になってくる。こんなに美が持つ権力が大きい時代に、努力もせず簡単にお金で買うなんて許せない! となるのではないでしょうか。競争社会の中で能力を引き上げるという点では、お金をかけて塾やスポーツ教室に通うのと同様のはずなのに、整形に関してこれだけ批判が起きるのは、美が圧倒的な権力を持つからなんですね。