夫に失望している「婦人公論」読者に届くか? 病も極貧も乗り切った、夫婦の形
売れないモデル時代、旅先のロンドンで世界的な写真家のピーター・リンドバーグ氏に写真を撮ってもらったことから運命が好転したという林マヤ。パリコレモデルとなってからは飲めや歌えや大騒ぎの日々、さらになにを血迷ったか「これからはジャズで自分を表現しよう」と思い立ち、自前でPVの制作&ライブまで。もちろんCDは売れず、さらにはアルコール依存を発症、一時は夫と2人で自殺まで考えたと言います。『ケーキ屋ケンちゃん』で知られる宮脇も同様、超人気子役時代は「小学生の分際で月々の小遣いが数十万円、大人と一緒に高級クラブに繰り出しては支払いは僕、なんてことを当たり前のようにやっていました」。子役の宿命か、成長とともに人気低落、ディスコの黒服ケンちゃん、毛皮のセールスケンちゃん、地上げ屋ケンちゃんなど職を転々とし現在はネットワークビジネスのケンちゃんに。売りモノがどんどんヤバくなっていくよケンちゃん……。
そして2人とも“パートナーによって救われて今がある”としみじみ。この特集が啓蒙しようとしているところは、おカネ云々より案外この辺りだったりして。おカネ大事、夫も妻もやっぱり大事?
■夫婦というより一座の感覚
続いては、巻末の小特集「女性に急増 心の病に気づくには」です。リードには「なんだか気持ちをもてあます。いつも体がだるい。その不調、もしかしたら精神的な疾患かもしれません」とあります。“その原因こそダンナじゃい”という声も聞こえてきそうですが、先に進みましょう。
「『おしゃれが面倒』は要注意。40~50代に多い不調を知ろう」によりますと「睡眠が浅くなった」「部屋が散らかっていることが多い」「いつも同じ服ばかり着ている」「被害妄想が増えた」そして「夫が家にいることで、『イライラ』や『憂鬱』を感じるようになった」などは、「心の病気のサイン」なのだとか。ここでもやはり夫。
しかし不調の原因も夫なら、快復の一助となるのもまた夫であるというのが、「夫婦対談 柄本明×角替和枝 『6時起床、10時就寝』を続けて、妻のうつは夫婦で治しました」。「10年ほど前から胸の痛みと不眠に悩み続け、5年前にうつと診断された」という女優の角替和枝。闘病生活の中で変わっていった夫との関係について語っています。
芝居で頭がいっぱいの夫、子どもたちの独立、30年以上離れて暮らしていた実母との同居……さまざまな要因が積み重なり、「オレが『もっとお母さんの面倒みてあげなよ』と言うと、ケンカになった。その少しくらい前からかな、和枝さんが『心臓が痛い!』と言い出して、ひどい時は救急車を呼ぶ騒ぎが何回かあったよな」(柄本)、「それよりもつらかったのは、不眠。『あれっ、寝つけないな』という夜がたまにあったのが、だんだん、朝まで眠れない日が続くようになっていた」(角替)。
この対談の肝は、角替がうつと診断されてからの柄本の行動です。たとえば「とにかく朝6時に起きて、夜10時には横になりなさい」という医師からの指導を「『和枝ちゃん、6時だよ、起きろ!』って。で、起きたのを見てオレはまた寝る(笑)」。夜になれば「『和枝ちゃん、布団で寝なよ』って、追いやっていたよな(笑)」。6時に起こして、自分は寝る。必要以上に励ますことも、気づかい過ぎることもなく、淡々と接する夫。そうするうちに2、3年で体調は回復。「あんたのあれ、『気分タンク』だっけ? 嫌なことが溜まっていく心の入れ物って……」(柄本)、「そうそう。今じゃ『気分タンク』が満タン近くなってきたなというのがわかるから、あらかじめ宣言してる」(角替)、「こっちは『はいそうですか』と答えてそっとしておく。どんよりしてるなとか、調子はだいたいわかるから」(柄本)。
多くの夫が妻のこの「気分タンク」を理解せず、結果満タン状態で「夫とはもうやっていけない」となるわけで、うつ病のみならず、長く夫婦を続ける秘訣なのではないでしょうか。お互いの「気分タンク」に気を配り、借金や病気でどん底の妻/夫を救うのも、また配偶者。結婚とはシステムではなく関係性、当たり前だけど見落としがちなものが今号の「婦人公論」には散りばめられていました。
(西澤千央)