山下智久版『アルジャーノンに花束を』、予想外の結末に野島伸司が託したもの
◎山下の欠点を魅力に転換
『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ系)の草野彰など、山下が演じる役はふわっとした子どもっぽいキャラクターが多い。舌っ足らずなしゃべり方のせいか、どんなに真面目な役を演じても、独自の軽さが出るのが山下の面白さだ。咲人の天使のような無垢さは、そんな山下の持つふわふわした佇まいに依るところが大きい。『プラトニック』(NHK)の堂本剛や、『お兄ちゃん、ガチャ』(日本テレビ系)のジャニーズJr.など、近年の野島は、自己犠牲をいとわない理想の男性像をジャニーズアイドルに託しており、山下が演じた咲人もその流れにあたる存在だ。
一方、『未成年』や『聖者の行進』などの過去の野島ドラマに比べると、咲人は、障害を持つが故に周囲から差別されているという印象は極めて薄い。咲人に求められたのは、傷つき苦悩する姿ではなく、周囲の人々を温かく包むような優しさである。シリアスな芝居ができないからこそ、山下には咲人を演じることができたのだ。
咲人は職場で軽く見られることはあっても、すごく大事にされていた。また、女性にもモテモテで、外見の魅力だけで女が集まってくるという思い切った翻案もされている。このように、咲人の設定だけ見ても原作をかなり改変している。また、本作では、脳生理科学研究所センター部長(石丸幹二)との疑似的な父子関係や、咲人を捨てた母親・窓花(草刈民代)との関係など、咲人を中心に多角的な人間関係が盛り込まれていたが、何より魅力的だったのは、花屋の青年たちと咲人の友情だ。
だから、手術後に退行した咲人を迎え入れたのが、恋人の望月遙香(栗山千明)でも、母親のいる家族でもなく、窪田と工藤が演じた2人の男友達だったというのは、驚く一方で、近年の野島の仕事を見ていると、ある種の必然のように感じた。
かつて野島は、『高校教師』等の作品で、少女に過剰な母性を求め、精神的に救われようとする男たちを繰り返し描いてきた。しかし、『49』(日本テレビ系)や『お兄ちゃん、ガチャ』を筆頭に、近作では少女や母親に対してはあまり期待しておらず、むしろ男の側から女たちを拒絶し、男同士の友情の中に居心地の良さを求めるという物語を、繰り返し描いている。
咲人たち3人が、海辺でハンバーガーを売りながら一緒に暮らすという予想外の結末に終わった本作だが、あの3人の暮らしこそが、苦難の果てにたどり着いた野島伸司の安住の地なのかもしれない。
(成馬零一)