男・女らしさや恋愛のフォーマットから解き放たれることで得られる、生きやすさと強さ
■『世界“笑いのツボ”探し』(ピーター・マグロウ、ジョエル・ワーナー著、柴田さとみ訳、CCCメディアハウス)
笑いについて研究する大学教授とジャーナリストが、世界共通で通用する“笑いの法則”を科学的に解明するべく、タンザニア、日本、パレスチナ、アマゾンなど世界各地を巡ってお笑い事情を調査していく、異色の紀行研究エッセイ。教授自らがお笑いのステージに立ち、派手にスベってしまうところから始まる本書。お笑いへの再挑戦を誓った教授が、“最短で世界一のコメディアンになる極意”を探るため、各地特有の笑いのあり方を調査する。
さまざまな分野の先行研究を紹介しながら、パレスチナ地区の唯一のお笑い番組のスタッフや日本の吉本興業社長ら、各国のコメディ事情に詳しい人に取材する。笑いについての貴重なフィールドワークレポートとしても読めるが、現地の人々と積極的に触れ合い、大阪のスナックで、アマゾンの奥地で、果敢に人々を笑わせようと試みる2人の道中は、よくできたコメディのように楽しんで読むことができる。この調査旅行で「世界共通の笑いの法則」が解明されたかどうかはともかく、体当たりで経験を積んできた2人は確実に魅力的に、面白くなっているだろうと思わせる。
そして旅行を終え、笑いの持論を深めた教授が、コメディアンとして再び舞台に立った結果は――ぜひ、本書を読んで確かめてもらいたい。
■『職業は武装解除』(瀬谷ルミ子、朝日新聞出版)
戦争や紛争で荒廃した地に赴き、社会インフラを立て直し、時には政府と交渉しながら市民の自立を支援するシステムをつくり出す「武装解除」を仕事にする瀬谷ルミ子氏。今年、「戦後70年談話」の有識者懇談会メンバーに最年少で抜てきされ、2011年には「世界が尊敬する日本人25人」にも選出された著者による、自伝エッセイ。
ある写真をきっかけに、「紛争で被害に遭う子どもを減らしたい」と考えた瀬谷氏。特別なコネクションも知識もない普通の女子高生だった彼女が、どのように最初の一歩を踏み出し、その後どう立ち向かっていったのか。ユーモアも交えた柔らかい筆致で描かれた一人の少女の成長記であり、紛争が起きている国の厳しい現実を描くルポでもある。
家族を殺すか、自分が死ぬか選ばざるを得なかった8歳の男の子。家族を殺した加害者の仲間と隣り合わせに生きる市民の苦悩。単純な勧善懲悪では解決できない紛争の現実に、多くの読者は、「自分にできることはない」と考えるだろう。実際、人間一人ひとりは、基本的には世界で起こる紛争に対して無力だ。しかし、“無力だから何もしない”と傍観者の立場を選ぶことが、間接的に、世界の、そして自分たちの未来の選択肢を狭めていると、著者は繰り返し語りかける。
日本の強みを生かし、国境を超えて人々とポジティブに関わり合うことの大切さを説く瀬谷氏は、私たちが望む未来は祈ったり戦ったりして得られるものではなく、実務的に行動して獲得していくものであるという持論を体現している。世界の残酷な部分、むごい部分を人より多く見てきた彼女による「現実は時に直視したくないほど厳しい」「それでも、そんなに捨てたものじゃない」という言葉は、決してきれいごとではなく、強い説得力をもって響いてくる。大きな、自分一人では手に余るような問題の解決に向けて、最初の一歩の踏み出し方を考えさせられる本だ。
(保田夏子)