「“愛され”にお金は払えない」マンガ家・久世番子×曽根愛が語る女子ファッション闘争
『着ていく服が見つからない』(C)曽根愛
久世 私も服を見るのは好きだけど、自分が着飾ることに対してはあまり興味がない……というか、むしろ不自由さを感じていた人間で。ファッション誌を読んでも「こうやったらオシャレになるよ」という情報ばかりで、「一歩まちがえると危険な着こなし」的な指南がないんですよ。「なぜ私はオシャレにならないの?」という、そもそもの疑問は一向に解消されないでいました。まぁ、その理由は、簡単で。ファッション誌は広告媒体の一面も持っているから、ブランドや着こなしをあからさまにディスれないんですよ。そういうわけで、自分で描いてみることになりました。
曽根 ファッション誌って「モテの着回し1カ月」みたいな「男性にどうやって愛されるか」目線ばかりですごいイライラします。モデルが演じる主人公のOLが「友達の結婚パーティに行って運命の出会い」とか、「仕事帰りの合コンで出会った2人の男の間で揺れて……」とか、そんなのばっかり(笑)。もちろん「Zipper」(祥伝社)や昔の「Olive」(マガジンハウス)など、そうじゃないファッション誌もありますけど。
久世 やっぱり、服を売るための企画ですからね。売る動機として“モテ”のパワーは凄まじいですよ。一体誰のためのファッションなのか時々わからなくなります。
――曽根さんの作品でも、男性受けがいいツインニットで挑んだ合コンでデートにこぎつけるも、そのデートに本来の自分らしいカジュアル服を着ていったらどん引きされたエピソードが印象的でした。
曽根 はい(笑)。
久世 出た、ツインニット最強説(笑)。女子アナ信仰の根強い男性には相変わらず人気のアイテムですよね。
曽根 私も30代前半の頃に、「やっぱちょっとモテたい」と思った時期があって、女子アナっぽい格好をしたことがありまして。男性の多くはその格好を見ると「攻撃してこない女だ」と安心するみたいで、私に近づいてきた人もいたんですけど、デートしてみても話が合わなくて。向こうはゴルフや海外出張とかの話を聞いてもらいたそうだったんですけど、私は「うまい棒の○○味がおいしい」みたいな話をしたがっちゃう(笑)。モテファッションはある種の「記号」なのだと気付きました。面白くない自慢話を「わ~、すごいですね~」と笑顔で持ち上げ続けられる女性ですよという、記号。
久世 そういった技を難なくこなせる子だったら、わかりやすい格好すればいいんですよ。もしくはそういう女子の擬態をしている方が生きやすい人がコスプレ感覚で装うのもアリかもしれない。ただ、私の場合「それは別料金になります」(笑)。
曽根 結局私もストレスがたまって「やっぱもうモテとか必要ないわ、自分がこなせない役割を無理に演じようとするのは疲れるわ」と悟りました。
(後編につづく)