ココナッツオイル、なぜヒットした?若者・中高年を魅了する「全方位的ブーム」の裏側
2013年辺りからじわじわと広がり、2014年に一気にブームに火が付いたココナッツオイル。ある販売会社では13年の販売量が12年比で500%を超えたといい、14年には美容健康マーケット全体の注目商材のひとつに。15年に入っても、それまで主流だったインターネット通販だけでなく、百貨店、スーパーなどへ販路を拡大し、さらに関連書籍も14年のおよそ38タイトルに続き、15年5月時点では刊行予定のものを含め、既に18タイトルが上梓されている(アマゾンより)。
■悪者オイルのイメージから脱却
米モデルのミランダ・カーがココナッツオイルを愛用していることが日本でもよく知られているように、アメリカでのココナッツオイルのブームは日本よりも早く10年頃に訪れていた。そのきっかけとなったのは08年の医師のメアリー・T・ニューポート博士のレポートで、そこでは母乳やココナッツオイル、パームオイルなどに含まれる中鎖脂肪酸がアルツハイマー病の症状に効果的なケースが認められることを示していた。
もともとココナッツは「生命の木」とも呼ばれ、そのオイルは古くはインドの伝統医学・アーユルヴェーダでは薬として用いられていた。現在でも東南アジアを中心に欠かせない植物油であるが、アメリカにおいては現在とは反対に、ココナッツオイルは動脈を詰まらせ心臓病の引き金になる悪玉オイルと、実に40年もの間認識されてきた。ブームの火付け役となったブルース・ファイフ氏の著書『THE COCONUT OIL MIRACLE(ココナッツオイル健康法)』の序章では、その理由を国内産の大豆油の供給のため、マーケティング戦略として東南アジア産のココナッツオイルは不健康とのレッテルが貼られたことが書いてある。
悪玉オイルと思いこまれていたココナッツオイルは、この発表を機に、次第に健康オイルとして受け入れられることになる。ココナッツオイルに人々の注目が向けられたのには、アルツハイマー病への関心のほかに、もう1つアメリカで繰り広げられてきた「トランス脂肪酸」の論争も関係していたようだ。トランス脂肪酸は、主にファストフードや加工食品で用いられている水素添加された植物油から発生するもので、以前から肥満につながり、心臓病、動脈硬化のリスクを高めることは指摘されていた。
結果的には、13年に米食品医薬品局(FDA)が規制の動きに転じたが、それまで健康的と信じられてきた(水素添加された)大豆油が肥満や病気のもとになりうると周知され、規制あるいはセルフケアにおいても消費の減少が意識されるようになった。
この点、天然のココナッツオイル(エキストラヴァージンココナッツオイル)はトランス脂肪酸を作らず、比較的安価で手軽に用いることができたため、外食チェーンでの代替品にはならないまでも、個人ベースでの消費を活況させ、ココナッツオイルの注目度は高まった。