サイゾーウーマンコラム介護士の地位の低さに中国人ヘルパーは コラム 介護をめぐる家族・人間模様【第52話】 介護士の地位の低さに中国人ヘルパーが取った行動――「中国の友人には見下されている」 2015/05/10 21:00 介護をめぐる家族・人間模様 Photo by Yosuke WATANABE from Flickr 加齢とともに、髪も眉もまつげも減ってくる。災害時、避難所に入ることになったときに、眉が書けなかったらどうしようと言った先輩がいた。毛の薄くなった女の切実な悩みだ。アートメイクをすれば解決と思いきや、眉は流行があって、太眉がはやりのときに入れると、細眉がはやったときに困るらしい。アイラインをアートメイクで入れた友人がいるが、最近はまぶたがたるんで、せっかく入れたアイラインが隠れてしまうのだそうだ。まったく、こんなことが起こるなんて、想像さえしていなかった。災害時、「想定外」という担当者の気持ちがちょっとわかったりして。 <登場人物プロフィール> 黄 雅文(41) 中国東北部出身のヘルパー。首都圏で、夫、小学2年生の息子と暮らす ◎お客様は自分のことを日本人だと思っている 黄さんは、有料老人ホームで働いて5年になる。初めて来日して10年あまり。日本語の会話にはまったく支障がない。 「来日したのは、結婚して間もない夫の転勤のためです。旧満州の出身で、中学校では英語ではなく日本語を習っていたので、日本に来るときも言葉の面ではそう不安はありませんでした」 来日した黄さんは、中華料理店で働いた。せっかく日本にいるのだから、日本語を磨きたいと思ったが、中華料理店で使う日本語は限られていた。そう思いながら新しい仕事を探すきっかけも見つからないまま数年。妊娠、出産や震災で何度か中国に帰国し、日本に戻った4年前、ヘルパーの資格を取ることにした。 「中国ではおばあちゃん子だったし、お年寄りの世話をすることならできるだろうと思いました。ヘルパー講習の研修で、いくつかの施設に行ったのですが、訪問介護だと日本の家庭料理が作れない。デイサービスだとレクレーションを1人で仕切らないといけないので、これも自信がありませんでした。有料老人ホームなら大丈夫だろうと思い、応募したら採用されました」 黄さんが自分にも務まると思った有料老人ホームだが、問題は夜だった。 「夜勤担当が1人だったんです。介護なら1人でも頑張れますが、お客様が急に病気になるとか、体調が悪くなるとかしたときに、私には何もできません。怖くなって、そのホームを辞め、今のホームに移りました。今のホームは、24時間看護師が常駐しているので、夜勤でも安心できるんです」 日本料理は作れないと言った黄さんだが、そのほかには外国人だから困ることはないのだろうか。 「お客様は私のことを日本人だと思っているみたいです。顔はほとんど日本人ですから。苦手なのは歌ですね。音楽が苦手だったので、中国の歌でもダメ。でもここで歌を担当することはないので、それほど困りません」 ◎お客様は親戚のような存在 職場での人間関係に悩んで辞める介護士は多いが、黄さんにそんな悩みはないという。 「もちろん、意地悪な同僚もいますよ。私の日本語がヘタだと嫌味を言われたりもしました。でも、そういうことは大した問題じゃないと思います。我慢すればいいだけ。どこに行ったって、嫌な人はいるんだから。でも外人だから介護がヘタだと言われるのは、悔しい。だから、上手な先輩について勉強しました。タイムスケジュールが決まっているので、介護にもスピードが求められるし、お客様によって介助の方法も違います。だからまずは、お客様に私を信頼してもらえるようにしようと思いました。そのためには、相手のことを好きになるんです。相手を変えることはできないんだから、自分が変わるしかない。それに誰にだって、絶対どこかいいところがあります。だから、その人のいいところを見るようにしています。お客様は親ではありませんが、親戚のような存在ですね」 あまりに模範的な言葉が並ぶ。まるで自己啓発本だ。実は、日本の介護業界や日本人の嫌なところをしつこく聞き出そうとしたのだが、黄さんから否定的な答えはまったく返ってこなかった。本当にまじめで頑張り屋さんなんだなと思う。こんな介護士なら、きっと好かれているんだろう。 「でも、今の仕事を将来もずっと続けているかどうかはわからないですね。本当は看護の勉強もしたかったけれど、もう40過ぎたし無理かなと思っています。最近独立した夫の仕事を手伝ってほしいと言われているので、パソコンの勉強もしたいし、身につけた日本語を生かして、中国人のガイドをしてみたいとも思う。病院に連れていくガイドだったら需要があるかなと思っているんです」 これほど介護に対して前向きでありながら、介護業界に骨を埋める気がないとは意外だが、そんな言葉とは裏腹に、黄さんは今猛勉強中だ。 「中国の友人には『老人ホームなんかで働いているの?』と見下されているんです。介護士の評価は、日本も中国も同じようなものですね。それで、今は介護福祉士の勉強をしているんです。そんなに難しくないだろうと思っていたら、とんでもない。簡単な読み書きならできたのに、教科書レベルの日本語はやっぱり難しい。辞書を引きながらなので、1ページ読むのもすごく時間がかかって、なかなか進みません。仕事が終わったら、子どもの宿題を見て、自分の勉強をする時間は1時間くらいしか取れない。夜勤明けや休日は教科書を50ページ進めるのを目標にして頑張っています。1回で合格は無理かもしれないけれど、2回目くらいで資格を取れればいいですね」 あくなき向上心の原動力は、介護士の地位の低さだった。資格を取って、黄さんが活躍できる環境があるといいのだが。 最終更新:2019/05/21 16:01 Amazon 『介護ヘルパーは見た (幻冬舎新書)』 長寿大国の重みがズッシリと…… 関連記事 倒れた親は施設か家か、延命はどうする? 問いの中で“親の介護”を描くマンガ3冊長男に拒絶された住職のさびしい晩年――北陸地方、寺を飛び出した息子に憤る檀家「故郷なら言葉が通じる」母親のお骨とともに故郷に戻ってきた父親「夫にも義父母にも上から目線」ご近所トラブルの火種をまく母に、娘は……「老後は弟の病院で世話になるつもり」夫を頼りにする義姉たちに戸惑う医者の嫁 次の記事 稲森いずみ『書店ガール』戦犯逃れ!? >