[官能小説レビュー]

カルボナーラを食しながらセックスに耽る――『淫食』の性愛描写がいやらしい理由

2015/04/27 19:00
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『妻の犯罪―官能小説傑作選 哀の性』(KADOKAWA)

■今回の官能小説
『淫食』(『妻の犯罪―官能小説傑作選 哀の性』より/小玉二三、KADOKAWA)

 食事とセックスは非常によく似ている。目で楽しみ、口の中に含み、舌で味わい、咀嚼する。出会いからセックスに至るまでの流れと同じようだ。女も、セックスをするときにパートナーになる男のルックスにこだわる部分はあるが、男が女の見た目に対するこだわりようは想像以上に強い。容姿やスタイルの好みはもちろん、触り心地や肌の感触まで細かくイメージしている男性が少なくないのだ。

 筆者の知人の男性は、胸が小さくて細身な女が好きだと言っていた。その理由は、セックスの時、恥骨が浮き出た部分をアイスキャンデーのようにしゃぶるのが好きだという。またある男性は、ぽってりとしたおなかに指を食い込ませるときの感触がたまらないそうだ。そんな話を聞いていると、「まるで食事の好みを語っているようだ」と感じてしまう。

 今回ご紹介する『妻の犯罪―官能小説傑作選 哀の性』(KADOKAWA)収録の『淫食』は、食欲と性欲がシンクロしている不思議な作品である。

 主人公の鍋島は、4年前にオープンしたレストランのオーナーシェフだ。離婚した元妻の実果とも円満で、鍋島の店に客としてやってくるほど。離婚したことに未練はないけれど、美食家である実果の肉感的な体だけは今でも恋しい。彼女の体はこってりとしたクリームの乗った肉料理のようで、鍋島はその体形にそそられて猛烈にアタックしたほどだ。
 
 鍋島が店を閉め、1人くつろいでいると、閉店した店のドアを誰かがノックする。顔をのぞかせると、そこには先ほど食事をしにきた女性グループの1人がいた。実果とは真逆の、柳のようにしなやかなプロポーションの女性だ。名前を瑠璃子という。

 鍋島は、ひょんなことから瑠璃子を自宅まで送ることになる。バレエのインストラクターをしているが、持病が重くなり、その道を諦めることになったという。鍋島は、そんな自暴自棄の彼女を抱いてしまう。

幼い頃からバレエのために食事を制限していた瑠璃子と、食事を楽しみながらセックスをする。鍋島は、卵を混ぜながら彼女のショーツを下ろし、ベーコンを炒めながら愛撫する。完成したカルボナーラを頬張る彼女の腰を撫で回し、ソースで唇を光らせる間も激しく腰を動かす。
 
 食欲と性欲、三大欲求の2つを同時に満たす2人のセックス描写は非常にいやらしくて、そそられる。それは多分、私たち人間の奥に秘めた本能をわしづかみにされるからではないだろうか。

 子どもの時は、好きな相手につい強くかみついてしまったり、制御できないほどきつく抱きしめてしまったりしたことがあった。まるで、交尾の後に、相手を食べてしまう生き物のように。相手を食べてしまいたいほどの愛の衝動が『淫食』にはほとばしっている。そして、好きな相手を自分の体内に取り込むことができる女は、男よりも少しだけ幸福なのかもしれないと思った。
(いしいのりえ)

最終更新:2015/04/27 19:00
『妻の犯罪 官能小説傑作選 哀の性』
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