サイゾーウーマンカルチャー大人のぺいじ官能小説レビュー『愛される資格』が官能ではない理由 カルチャー [官能小説レビュー] 上司の妻との濃厚なセックスシーンが描かれる『愛される資格』が“官能小説ではない”理由 2015/04/13 19:00 官能小説レビュー 『愛される資格』(小学館) ■今回の官能小説 『愛される資格』(樋口毅宏、小学館) 男はよく男同士の関係性を築くために女を利用することがある。ひと昔前だと「家庭を持つ」ということは、男にとって社会的地位を安定させるための重要な要素だった。また、任侠映画などでは、いい女を抱くことが男にとってのステイタスだったりする。 男たちの身勝手に付き合わされる女たち。もちろんその男女間には、多少なりとも恋愛感情を育んではいるのだろうけれど、もしかすると、男たちにとっては目の前の女よりも、この女と関係している自分自身が、ほかの男たちにどう映っているのかが重要なのでは、と感じることもしばしばある。 今回ご紹介する『愛される資格』も、そもそもは男同士の些細な憎しみ合いから生まれた物語だ。主人公の兼吾は、大手文具メーカーに勤めるバツイチのサラリーマン。入社10年目、33歳になる兼吾には、入社以来ずっと気にいらない上司がいた。それは、同じ経理部の部長・下永だ。 22歳上、大学時代はラグビー部の主将、がさつで吝嗇家。体育会系の権力的な態度は、常に兼吾を苛つかせていた。ある日、1人休日出勤をしていた兼吾のもとに、下永が現れる。誘われるがままに二軒ほど店を渡り歩き、酩酊した下永を自宅に送り届けた兼吾。リビングの写真立ての中では下永を中心として夫人と娘が微笑み、彼もまた、普段社内では決して見せることのない柔らかい笑顔をしていた。リア充クソ野郎――兼吾は、ある計画を立てた。下永の妻・秀子を寝取ってやろう、と。 突然の兼吾からの連絡を受け、最初は警戒をしていた秀子だが、2回、3回と会うたびに2人の距離は縮まってゆく。最初はカフェ、次は中華料理店からバーへハシゴし、大通りから隠れて唇を交わす。そして、次に会うときは、シティホテルへ。「あなたのことが好きです」と、ひと回り歳上の秀子を抱く兼吾は、下永への復讐心に陶酔していた。 しかし、晴れて上司の妻を寝取った兼吾だが、体を重ね、互いをあだ名で呼び合ううちに、心の中に秀子への愛情が芽生え始めてしまう。そして2人の運命は、思わぬ方向に転がってゆく――。 この本の帯には大きく「これは官能小説ではない…純愛小説である。」というキャッチコピーが書かれている。兼吾と秀子のセックスシーンは非常に濃厚に描かれているが、官能的に感じないところが不思議である。それは多分、兼吾自身が秀子を抱いているとき、どこか俯瞰で自分を見ているからではないだろうか。下永と真正面から向き合うことができなかった兼吾は、秀子を介することで下永と対峙したかった……だからこの作品は「官能小説ではない」のである。 しかし、男同士の物語に付き合わされた女だって、黙ってはいられない。ラストは予想を裏切る、女性上位の展開が待ち受けている。一見、一回り年下の夫の部下に転がされ、セックスに溺れてしまったダサいオバハンの秀子。けれど転がされていたのは兼吾だったと筆者は感じる。ここにキャッチコピーの「純愛小説である」という言葉が浮かび上がってくる。兼吾にとっては悲しさや葛藤を含んだ純愛、けれど見ようによっては痛快な本作を、ぜひ多くの女性に体験していただきたい。 (いしいのりえ) 最終更新:2015/04/13 19:00 Amazon 『愛される資格』 自分探しにも女を使わないで~ 関連記事 石田衣良『いれない』が教えてくれる、挿入のないセックスが男女を強く結びつける理由昔の女を忘れない男は面倒くさい!? 男目線のファンタジー『初恋ふたたび』が女に与える救い『ジェリー・フィッシュ』に見たセックスの本質、少女らが首を絞め合う意味『人形』が描く、「母親の男」に恋をしてしまった女の末路とは?ラブホテルという非日常で育った女の“節目”を描いた『ホテルローヤル』 次の記事 中山優馬に見えたジャニーズ桃源郷の姿 >