『男をこじらせる前に』湯山玲子×『ルポ 中年童貞』中村淳彦 対談【後編】

「権力にひれ伏せさせるのは男の病気」中年童貞が映し出す、男の病理の処方箋とは?

2015/04/26 19:00

■人に喜ばれるという根源的な喜びが男を変える?

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『男をこじらせる前に 男がリアルにツラい時代の処方箋』湯山玲子氏

――『ルポ 中年童貞』で紹介されていた、ネトウヨの男性も名古屋大卒と高学歴系中年童貞でしたね。ただ彼は趣味の読書会をきっかけにリアルな場所での他人とのコミュニケーションが取れるようになりました。自作の唐揚げを女子たちに振舞うなどの交流を通じ、明るく、健康的になっていきます。この本唯一の成功例に見えますが、ネトウヨ活動から離れられない。

中村 彼は40半ばになってリア充になってしまった。リア充になってしまってネトウヨ活動の継続を悩んでいるようですが、ネトウヨ創生期の頃から活動して、ネット左翼と戦い続けてきたトップネトウヨなために、簡単には足を洗えないようです。

湯山 実際の生活感覚ではなく、理想や思想にアイデンティティを持ちやすいのは男ですよね。中年童貞がいなかった時代、例えば全共闘時代の男は、家庭は旧来的な男尊女卑なのに、男女平等の理想を熱く語るような二律背反があった。学生運動で理想社会の実現を目指しながら、卒業して会社に入ってからは、コテコテの猛烈社員に転身。この清濁併せのむズルムケ感が男のずるさでも強さでもあった。それはそれとして、中村さんの本では、理想に生きてきたはずのネトウヨの彼が、女の子が喜んでくれた唐揚げ1つで、懐柔されて、リア充に戻る糸口をつかんでいる。だったら、もうそっちに行けばいいと思うんです。理想はもういいじゃないかと。唐揚げ側で踏ん張ってこその、カッコいい生き方もあるはずですから。

中村 ネトウヨの彼は、パソコンのある部屋から一歩出て行動できたのがよかった。多くの中年童貞は行動をせず、家と職場にしかいないので他者の目線に出会うことがなく、自分を客観視できていないのが問題です。リアルな女性と接触が一切ない二次元オタクの中年童貞には、歯が溶けている自分に気がつかない人さえいる。女性のいる「社会」には、自分を客観視しなければ入ることができません。


――悪質なこじらせ中年童貞をこれ以上社会に増やさないために、必要なことは何でしょうか?

中村 中年童貞問題に関心のある人たちと「どうすればいいのか」を考えている最中ですが、35歳を過ぎたら人はそう簡単には変われません。こじらせる前に、ネトウヨの彼が読書会に参加したように、男女が、競争ではなく平等にいられる場所に男性自身が積極的に顔を出し、頑張ってコミュニケーションしていく、というのが一番多い意見でした。中年の重症なこじらせは、もう治らないでしょう。予防が大切です。あと競争ではなく、自分の得意な分野を客観視して競争の少ない隙間を見つければいいと思います。

湯山 女性の人生はさまざまな道がありますが、男性のパターンはひとつだと思われている。だからこそ隙間を突いたり、逆張りができる男性は強い。マンモスをみんなで追わないで、そういう熱血ゲームに参加しないで、たんたんと木の実をひろっていくやり方ですね。『ルポ 中年童貞』という本も、中村さんが隙間をついた1冊ですよね。また、唐揚げを今度は自分がつくって女の人に喜んでもらう的な、人に何かをすることで喜ばれるという根源的な承認欲求を男の人はもっと大切にした方がいい。他者はそんなに怖くないという実感を、母親以外の人から、1人でも得られているかどうかも重要です。

 お金がなくても、お茶一杯で長い時間おしゃべりできるような場所や機会がもっとあればいいですよね。ヨーロッバやアジアにはそういう、商業化されていないゆとりの空間と時間が存在するのですが、我が国ではその“遊びの部分”がない。物を買う喜びだけで、人間関係が希薄な「人並み」な生き方がいかに、人生を損なうかを本気で考えて、自分なりの行動を起こした方がいいと思います。

(取材・文/石徹白未亜)


最終更新:2015/04/27 15:02
『ルポ 中年童貞 (幻冬舎新書)』
タカトシ・タカみたいな朗らかなバカと出会いたーい