カルチャー
[女性誌速攻レビュー]「DRESS」5月号

「産まない」を選択した女性を語る「DRESS」に抱いてしまった“モヤモヤ”の原因

2015/04/17 17:00

 作り手のポリシーや狙いって、説明してしまうのはとてもカッコ悪いと思います。その意図を受け手に伝える手段として、さまざまな企画があるわけで、そこで伝わらないことを補足説明するようなら、その表現方法も手段も間違っていると感じます。別の雑誌や企画で「DRESS」の企画趣旨やコンセプトの話をするならともかく、これって、例えるなら映画を見に行ったら、冒頭に監督が出てきて、「この映画のコンセプトは、社会の偏見を批判するために作りました。それでは、本編をどうぞ」って言っちゃってるような感じ。「俺らはこんなに一生懸命やってるんだ、わかってよー!」という魂の叫びのように見えます。

 あともうひとつのモヤモヤは、米倉さんが「惑いながらいろいろな壁を乗り越えていき、最後にはそれらをひっくるめて『40代って楽しかったな』と思いたい」と言うと、編集長が「いや〜、かっこいいな。このコメントに刺激を受ける読者も多いはず」と感心しているんですが、米倉さん、そんなにすごいこと言ってます? なんかしごく普通の意見のように思いますが、これで刺激を受ける読者がたくさんいるのだとしたら、よほど下り坂な人生を歩んでいるってことですかね。というかむしろ作り手が、「独身アラフォーを人生下り坂の人種だと思ってる」と読めてしまいます。

■「子どもがいない」のか「産まないと選択した」のか

 さらにもうひとつ、こんなモヤモヤが。「AERA」(朝日新聞出版)編集長による「今月の女ジャーナル」です。今月のテーマは「産まない選択があっていい」。「AERA」が2月に特集した「子どもいらないは人に非ずなのか」という、「産まない」選択をした女性たちに寄り添う記事が、「2ちゃんねる」で賛同を得た、といった内容です。本人も書いているように、「2ちゃんねる」ユーザーは反体制、嫌朝日の姿勢である人が大半なので、「AERA」を応援するスレッドが立ってよほどうれしかったのか、「ちょっとなにを言っているのかわからない」コラムになっていました。

 政府が国を挙げて女に出産しろしろとせっつく時代に、「産まない」選択をする人たちのことを白い目で見る人が多いけど、偏見をなくそうよ、人がどういう考え方をしようと自由じゃない、という内容はわかります。しかしコラムのラストで、「どうしても急な出張や残業、事件取材などは子どもがいない人に頼らざるを得ないから、子どものいないスタッフにはいつも感謝している」「自分とは立場も思いも違う人がいる」と結んでるところに非常にモヤモヤさせられます。

 編集長自身は、ワーキングマザーだそうです。そして「AERA」の副編集長3人もワーママなんだとか。はっきり言って、彼女らが子どもを産んで働き続けられるのは、「朝日新聞」という大きな保障があるからです。同じ社内にいる、例えば派遣社員や外注スタッフが、同じ感覚で子どもを産もうと決意できるかと言ったら、そうではないと思います。

 今ある仕事を捨てて、2年か3年後に戻って来られるかな、という不安を抱えて「産むか産まないか」を決断しなければならないでしょう。編集長が言うように、子どものいない立場だからこそ、緊急の仕事を任せられていたのなら、子どもを産んでその特権がなくなったときに自分に仕事が回ってくるかというリスクもあります。

 大手会社の正社員ではない女性たちに現在子どもがいないのと、「産まない」選択をしたのとは、イコールではないはずです。だから、「仕事を回した子どものいないスタッフに感謝すること」と「産まない選択をした人たちを差別しない」ことは別次元の話なのではないでしょうか。なのに同じくくりの中で語られていて、非常にスッキリしません。端的に言えば、自分は社会的な特権を生かして産んで育てていて、誌面ではワーママ特集ばかりをやっていて、そして子どものいないスタッフを頼っているのに、「産まない人権もあるよね」って言われても、なにか上から目線のような感じがしてしまいます。問題はそこじゃないというか、ピンと来ませんでした。

 ちなみに、「2ちゃんねる」で立ったという「AERA」を応援するスレッド、探してみたのですが「【雑誌】AERAでガンダム特集、表紙は安彦良和描き下ろしのシャア」というものしか見つかりませんでした。一体「応援スレ」ってどこにあるのでしょう、それもモヤモヤ気になります。
(増井涼子)

最終更新:2015/04/17 17:00
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