「結婚しなければまともじゃない」男にとっての結婚の意味=“普通”の延命【男性学編】
――女性に比べ男性はそのビジョンの選択肢が少ないですよね。
田中 そうですね、フルタイム、定年まで働くというのが固定になっているのでバリエーションが生まれにくいんですよね。特にこういった選択が難しいのは、むしろ恵まれている人なんです。年収が高い男性ほど結婚しているというデータがあります。これは、一定以上の年収があるのに結婚していないのは許されないこと、とも言えます。恵まれている、と思われれば思われるほど「正しい」男の生き方を強いられる。社会的な地位の上昇とともに、生き方の選択肢が狭まるんです。
――金持ちが文句言ってるんじゃないよ、というやっかみはあるでしょうね。
田中 そういった人は愚痴のこぼしようがないのではないでしょうか。日本は同性愛嫌悪が強いため、ある程度の年齢で年収があるのに独身の男性がいたらあの人、ゲイなんじゃないの? という揶揄が出てしまう。そもそもゲイの何が悪いのかと思うのですが。
――「定年まで正社員で働く、妻子を養う」とは異なる生き方を選択している男性はわずかとはいえ、すでにいますよね。なぜそんな、頑ななまでにできないのだろう、とも思いますが。
田中 もう結婚している場合は難しいですよね。奥さんが自分以上に収入があるケースならいいでしょうけれど、そうでなければ家のローンと子どもの教育費が自分にかかっていますから。また、本人がひとつのイメージしか思い描けないこと以外に、「定年まで正社員で働く、妻子を養う」以外の男性の生き方に、後ろ指をさす存在がいますよね。例えば親とか、世間一般とか……。浅草に行ったときに、ある芸人さんが人力車を引いていたんです。それを見た人が、「テレビだけじゃ食べられないから人力車を引いてるんだ」と否定的なニュアンスで実際に言っていましたから。その芸人さんはその人に何も迷惑をかけていないのに……。
――女性でも、自分は普通だと思いたい、普通から逸脱したくない、という人は多いですが、男性の方が根深さを感じますね。
田中 あと、普通ではない人を否定することで、普通側にいたい人が「延命」している側面はあると思います。例えば、「正社員になりなさい」と言う人に、「なんで?」と聞くと「フリーターになったら大変だよ」。「結婚しなさい」も、「結婚しないと老後が大変だよ、さみしいよ」になる。正社員や結婚そのものの価値を言える人がいなくて、そうじゃない状態を否定することで普通を保っているのではないでしょうか。言っている本人すら、結婚や正社員の価値をわかっていないんです。でも、代案もないので、これが通ってしまう。
――こういった現状に対する解決策はあるでしょうか?
田中 社会が変わるのを待つのは時間がかかるんですね。自分で考えていくしかないでしょう。何で結婚したいか? について、「結婚しないと大変だ」だけであれば、説明になっていません。それでも結婚したい理由があれば結婚すればいい。正社員になることも同じです。世間体は、とか一般的には、など考えずに、自分自身で考えることです。