「結婚しなければまともじゃない」男にとっての結婚の意味=“普通”の延命【男性学編】
――「ああ、どおりで……」ってなりますね。
田中 「職を転々としている」も似たような意味で使われますよね。これは秋葉原通り魔事件の加藤智大でも、今から約50年前に連続ピストル射殺事件を起こした永山則夫でも使われていたんです。転職は日本社会において珍しいことではないのに、ひとつの会社で働いていない男性に対する不信感があり、それは50年前から変わっていない。もう経済状況も右肩上がりではないですし、親世代の「普通」のようにはできないですよね。普通にもなれない、という状況が今の男性の置かれた状況なんです。本来、思い描いているそれは「普通」じゃないんですが、親を見ると「普通」だと思ってしまう。普通にも届かない自分の苦しさがある。
――30~40代から少し下がり、田中さんが大学で教えられている20代の学生たちになると、価値観は変わってくるのでしょうか?
田中 変わるところと変わらないところがありますね。男子と女子が食事をしたときにどう支払いたいか学生に調査したときに一番多かったのが「食べた分だけ払う」というものでした。男子が800円食べて、女子が700円食べれば、割り勘なら750円ですよね。これを800円、700円にしたいという意見が男女とも多い。今の学生たちを見ると、実際テーブルの上にお金を出して、結構細かく割っている印象です。若干、男子の方が女子より多く出さないと、と思っているようですが、だいぶ解消されていますね。
では何が変わっていないかとなると告白なんです。男性から告白すべき、という人が男女ともに多い。プロポーズになるともっとその割合が増えます。根本的な部分が変わっていない。男の人がリードし、女の人がリードされるという構造になっているんです。女性はいざというときは頼りたいと思っていて、男性は重要な決断をしなきゃいけない、と思っている。
■年収が上がるほど結婚を強いられる構造
――男性の生きにくさの原因は、「普通」へのプレッシャーでしょうか?
田中 そうですね。景気が悪いなりの、男はこう生きればいいよ、というモデルやビジョンがあれば生きにくくないのでしょうけれど。「定年まで正社員で働く、妻子を養う」のイメージが強固ですから。そのイメージと自分の現実のギャップがあるので生きづらい。変えないといけないのは現実ではなくイメージの方なんです。ただそれがうまくいっていない。