オシャレな表紙とハイテンション造語でごまかされてる、「ar」の“今じゃない”ジェンダー観
■「買ってもらう」のが「ar」にとっての勝利
女性にとってファッションはどういうものであるか。先日のルミネの動画炎上事件では、「女性は男のためにおしゃれをしているわけではない。自分のためにおしゃれをしているのだ!」という意見が散見されました。実際はそういうファッショニスタはごく少数で、大半の女性は自分のためのおしゃれをすることもあれば、男の目線を気にしたり、同性の目線を気にしたり、上司の目線を気にしたり、その複合的な要素があったりと、同じ人であっても時と場合によっていろいろだと思います。そういうあっちへ行ったりこっちへ行ったりできる「ゆとり」の部分がなければ、おしゃれは窮屈なものになるのではないでしょうか。ただ、女性誌においてもかつてほど“モテ”ファッション一辺倒ではなくなってきていることから見ても、時代の流れとして「女性は男のためにおしゃれをしているわけではない」というファッション論が受け入れられやすい状況になっていることは間違いありません。
そんな流れに逆行しているのが、「お買い物デートの作法」という企画です。「ar」は主旨を次のように説明しています。
「カレに似合う服を選んでもらいたい(&買ってもらいたい!?)と、お買い物デートをする女子も多いハズ。しかし! 男子からは『正直、つまらない』という声も…。そこで、自分もカレも満足するための“作法”を研究!」
冒頭に掲載されているアンケート結果では、お買い物デートについて「超つまらない」または「つまらない」と回答した男子が6割以上。さらに、「とても苦痛」「苦行でしかない…」「お互いを不幸にしている!」という厳しい意見が並んでいました。これに対し、「ar」読者や心理コンサルタントがアドバイス。「カレを適度にイジる」「カレと歩くペースを合わせる」「デート中に(彼への)プレゼントを仕込む」「お礼に手料理を振る舞う」「人の集中力は20分が限界。ひとつのお店を見るのはそれくらいにする」……。
これじゃせっかくの買い物が楽しくない! 先ほどのボーダーと同様、そんな小細工までして、買い物を嫌がる男を無理やり引っ張ってこなければならないのでしょうか。互いにつまらない時間に耐えてまで、男に服を買ってもらいたいと思っている女性はどれくらいいるのでしょうか。買い物は男抜きで楽しみ、彼氏とは別のデートを楽しんでセックスすればいいじゃないですか。そうすればもっとラクに“私らしさ”と“モテ”が両立できるのではないかと思うのですが……。今ドキの感覚からはずれまくっている「ar」に、いらだちすら覚えました。
■「モテセク」という言葉遊びだけで満足してる感あり
お笑いコンビのどぶろっくが、モテるセクシー(=モテセク)を教授するという連載「どぶろっく師匠の“モテセク”論」が始まりました。ウケ狙いの企画かと思いきや、笑いの要素が一切なく新鮮味もまったくない内容で驚きました。断言しますけど、この世の中、どぶろっくに「柔らかバディであってほしい」「ムダ毛はNO Thank You!」「(合コンで)スケスケ服でエロスイッチ入れさせといて、そんなつもりじゃなかったっていうのはどうかと思う」なんてアドバイスを聞きたいと思っている女性はいません! 皆無! 1回きりの企画ならまだしも、これが連載とは「ar」の意図が理解できません。
ここまで語ってきたように、今の時代、“モテ”を語ることはとても複雑なもの。ただ男ウケだけを求めればハッピーになれる状況ではないからこそ、“私らしさ”も追求したいし、“女ウケ”の世界も楽しみたい。だからといってモテたくないわけじゃない。“私らしさ”と“モテ”の両立に戸惑う20代、30代の読者へ、もっと愛情のこもったメッセージを送ってほしい。軽い箸休め的な企画ページであっても、いやむしろ商品紹介が絡まないこういう小さな企画ページだからこそ、雑誌の姿勢がモロに表れ出てしまいます。あまりに雑で残念です。
「俺的にはブラジリアンワックスCOME ON! だけど処女性を大事にする男性の場合は、遊び慣れてるのかな、誰に教わったんだろう…なんてマイナスに受け止められる危険も。そこは男の年齢にもよるのかな。俺なんかはむしろお手入れしてあった方がいい。どんなデザインでもドンッと来い!」と、どぶろっく江口(←歌っている方)はコメントしています。こういうデリケートな話題を語るなら、それはきっとどぶろっくではないはず。なぜ処女性が大事なの? なぜブラジリアンワックスを施していると処女性が損なわれるの? なぜ男の年齢によって受け止め方が違うの? せめてもっと掘り下げてくれればよかった。そこから、「ar」が目指すべき雌ガールとはどんな女性か、現代の“モテ”とは何か、より明確に示されたことでしょうに。今月号には怒ってますよ、マジで。
(亀井百合子)