『男をこじらせる前に』湯山玲子×『ルポ 中年童貞』中村淳彦が語る“男の病理”
湯山 基本的に他人という存在は全て、自分を否定してくる可能性がある。母親といっても、女性にとってのそれは、けっこう「自分を否定してくる」やっかいな存在の場合があるのですが、男性はほとんどそれがない。ママが甘やかしてしまいますから。あと、以前は性の目覚めも男の親離れの重要なチャンスでした。夢精でパンツを汚してしまい、こんなこと親には言えないという思いや、下半身からあふれ出る性欲をなんとかしようと、息子は家の外に出ていかざるをえなかったんです。親が買ってくるダサいブリーフを、こんなもん穿かねえ! と自分でトランクスを買い出したりする、いわゆるパンツ問題ですね。ただこれも、ネットのアダルトコンテンツが充実してしまって、家の中で外に出ずとも、1人で性がバーチャルの世界で完結してしまうようになった。
中村 なるほどね……。人間は何事も楽な方に流れるので、子供のまま、マザコンのままアダルトコンテンツで性的に満足していた方が楽に生きていけますもんね。
湯山 また母親側も「あんたも大人になったのね」と息子の性に関して、情報が出回っているし、寛容になっている。結果、息子のセックスまで、「間違えがあったら困る」と管理したがる。そうしたらもう、息子は母から離れられない。
中村 しかし、母親がそこまで息子に執着するのは不思議です。なぜなのでしょう?
湯山 もともと、マザコンはそれこそギリシャ悲劇から、人類の傾向としてあるものなんですよ。しかし、そう生きがちな母親の愛のベクトルを、結婚した夫が男女の愛の力でもって、つがいにつなぎ止めておくモラルが、キリスト教圏の西欧はあったりしますよね。夫婦間セックスの義務・モラルもものすごく高くて、嫌々でもお勤めを果たさなければならない。母親の女の部分に、きちんと夫が付き合うという文化的同意があるんですけど、日本は「今さら、母ちゃんとセックスできませんよ」っていう愛のかたちですからね。夫が妻を女扱いしないためでしょう日本の女性は真面目な人が多いので、世の中で言われているほど不倫に走る人は少ない。
となると、そこで抑圧された妻の情愛部分が全て息子に向けられてしまうんでしょうね。走ってしまうのでしょう。防止するには夫が妻に愛情とコストをどれだけかけられるかですが、なかなか難しい。パートナーがいる人は花、チョコレートを惜しまないこと(笑)。妻のエロスを放置しないことが、母親による息子の愛情囲い込みを防ぎ、こじらせ中年童貞化を防ぐんでしょうけど、まあ、我が国では相当難しい。
中村 中年童貞の問題がその両親の夫婦間の問題にあるとは思いませんでした。ただ母親がそうやって甘やかしたせいで、息子が厄介な中年童貞になり、社会的に排除されるようになったら、母親はツラくないのかな。女性と社会に排除されたら、そんなに稼げないだろうし、経済的にも大きな損失ですよ。男には考えられない思考ですね。
湯山 現実に目をつぶって「うちの子はヤルときには、ヤル子なんだから」と愛を注ぎ続けるでしょうね。親のすねをかじり続けて、自立しようとしない息子ならば、毅然とした態度で勘当すれば良いんだろうけど、多くの家庭がそれをしない。逆に中村さんに、次のテーマとして、中年童貞の母親、にアプローチしてみてはいかがでしょう。
中村 ……(絶句)。