カルチャー
『相続百人一首』著者インタビュー

「我が家には たいした遺産はないけれど」相続トラブルを百首詠む、『相続百人一首』の魅力

2015/03/08 19:00

――そういった場合にふさわしい句もありますか?

森 【第26首】「我こそは 特別縁故者だったぞと 財産分与に 多数申し出」。亡くなった人に相続人が誰もいない場合、その人と特別の縁故があった人は、家庭裁判所に請求することで遺産の全部、または一部がその人に分け与えられることがあります。(特別縁故者の財産分与)。

――そうなると歌のとおり、「自称・縁があった」人が殺到してしまいそうで、また心配ですね。

森 そういった可能性のある方は、遺言を残しておくことがとても大切ですね。遺言は法的文書で、書き方に決まりがあります。正しく書かないと無効になるので注意が必要です。日本では財産は長男が継ぐ家督相続制度だったために、そもそも遺言を残すという習慣がほとんどありませんでしたが、欧米では遺言を残すというのが文化として根付いていて、7割程度の人が遺言を残しているそうです。

――日本に遺言の文化が根付かないのはなぜでしょうか?

森 戦時中も家制度は重視され、特攻隊員は農家の次男、三男坊が多かったそうです。戦後、GHQが民主化をする際に、家制度が消滅するよう欧米型の分割相続の仕組みに統一されました。ただ、欧米式の分割相続制度と、現在も特に地方では根強く残っている日本の家督相続制度がうまく融合していないことが、現代の相続問題の元になっています。

――数々の相続問題を見てこられたと思いますが、トラブルになりやすい人の傾向はあるのでしょうか?

森 感謝の気持ちの少ない人は起こりやすいなとは思います。ですが、とても優しい、紳士な人であっても、「この人だけは許せない」といった感情が、ある家族だけに向かう人もいるので難しい問題です。相続は教育にもなります。「代々守ってきた会社、土地」を引き継ぐことで、あわせてこれらを守っていかなければならないという使命感を引き継いだ方もいらっしゃることでしょう。一方で、子どもがまじめに働く気力をなくしてしまうから、「あえて子孫に美田を残さず」というのももっともな考えでもあり、難しいところではあります。ただ、親が残す遺産の中で最も大きなものは子どもの存在そのものなのだと思います。子どもが一生懸命に生きていくことが、何よりの相続なのでしょう。
(取材・構成/石徹白未亜)

森欣史(もり よしふみ)
司法書士・行政書士。税理士3名、社会保険労務士1名と共同で「金沢みらい共同事務所」を運営し、税務・法務・労務をワンストップ・サービスで提供している。著書に『相続百人一首』(文藝春秋)。
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最終更新:2015/03/09 12:34
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