「我が家には たいした遺産はないけれど」相続トラブルを百首詠む、『相続百人一首』の魅力
「我が家には たいした遺産は ないけれど 争い方は 金持ち並みに」
「この土地の どこからどこまで うちのもの? 死んだ親父に 今更聞けない」
――人間の最後の仕事でもある「相続」に起こりがちなトラブルや疑問を、上記をはじめとした百首の歌に詠んだ人がいる。『相続百人一首』(文藝春秋)の著者であり、司法書士・行政書士の森欣史(もり・よしふみ)氏だ。人間の悲喜こもごもが詰まった、味わい深い句が誕生した背景とそこから見えた現代の家族模様を、森氏にうかがった。
■「普通の相続」は司法書士、行政書士の仕事
――なぜ「相続で百首歌を詠もう」と考えられたのでしょうか?
森欣史氏(以下、森) もともと専門学校の講師をしていた時代に、歴史上の人物と業績を百人一首にまとめたり、「マネー川柳」に応募したりするなど、歌を詠むのが好きだったというのもありますね。短歌はお風呂や電車の中で思い浮かぶことが多く、今回の『相続百人一首』のうち50~60首はそのどちらかで詠んだものになります。司法書士・行政書士の実務経験から、相続で起こりがちな問題を網羅できれば、と思い百人一首の形を取りましたが、私一人で百首詠んでいるので、正しくは「一人百首」ですね。
――森さんのお仕事である司法書士・行政書士は、相続のどの場面で関わってきますか?
森 相続では、土地の名義変更や預貯金の解約などが必要となります。その際に必要な戸籍などを集めたり、書類を作成したりするのが司法書士・行政書士の仕事です。裁判沙汰になるほどの大トラブルではなく、相続税が発生するほどの遺産でもない、その間にいる「相続で困っている、わからない」方へのサポートですね。
今、日本では年間で120万人の方が亡くなっていて、そのうち裁判沙汰になるケースは約1万件と1%以下です。相続税が発生したのも亡くなった方のうち約4万人と、3~4%程度です。ただこちらは、2015年1月からの相続税法改正で、7~8%程度に増加する、といわれていますが、それでも少数のケースです。一方、不動産の相続登記の申請は約80万件あり、亡くなった方の半分以上は直面する身近な問題なんです。
■「我こそは 特別縁故者だったぞと 財産分与に 多数申し出」
――法的な問題は素人にはわからないだけに、当事者になってみて初めてトラブルだとわかって困るケースが多いかと思います。多くの人が相続について勘違いしていることはありますか?