有料道路を「逆走」、気力も低下――父の認知症の前触れ、弟家族とは“家庭内別居”状態
せめてもの救いは、両親の仲がいいことだと寂しく笑う。
「母が大病をしたときも、父が病院に毎日行ってくれるし、その点では安心でした。ただ、ちょっと心配な兆候もあったんです。母が退院してからは、2人でよくドライブに行っているんですが、『この前は、有料道路を逆に走っていたよ』と笑いながら報告されました。ぞっとしました。すごい田舎ですから、平日はイノシシくらいしか走っていないとは言っても、へたすれば大事故ですからね。両親だけならまだしも、誰かをけがさせたりしたらと思うと本当に怖いです」
今問題になっている“逆走”がここにも! 笑いごとではない。家庭内別居よりも早急に対策を取る必要があるのではないか?
■農作業を禁止された父
中西さんは最近、また心配なことが増えた。父親の気力がなくなっているのだという。母親とドライブすることも少なくなり、口数もめっきり減った。テレビや新聞を見ることもほとんどない。母親からの電話で、その原因は、また弟にあるのではないか想像している。
「これまでは父も農作業をしていたんです。弟が手をつけていない畑があって、そこは父の担当だったのですが、最近は弟がそこに父が行くことを禁止しているらしいです。自分から引退したわけでもないのに、生きがいだった農作業もできなくなって気力がなくなったんじゃないかと思っています。もしかしたら認知症の始まりかも、とも思うんです」
ああ……手足をもがれたようなご両親の心痛はいかばかりか。“逆走”も、やはり認知症の前触れだったのかもしれない。もしかすると、弟は父親の異変に気づいて、畑作業を禁止したのかもしれない。しかし、中西さんは気を揉むばかりでどうすることもできない。
「母親も心療内科に通うようになりました。本当は父も受診させたいんですが、父が拒んでいるらしくて。でも、この前母がその病院に行ったら、帰り際に看護師さんに『邦弘さんは息子さんですか? 息子さんもいらっしゃっていますよ』と言われたそうなんです。いくら家族だと言っても、そんな個人情報を軽々しく伝える看護師さんも看護師さんですが。でも弟が心療内科に通っていたというのは、母も初めて知ったと驚いていました。あんな弟ですが、弟なりにつらいことがあるのかもしれません。どうしようもない弟だと思っていましたが、ちょっと胸が痛みました」
100%憎むことはできない。それが家族なのかもしれない。中西さんの両親が、つらい思いをしながらも息子家族と同居を続けるのも、家族だからなのか。