「手作りコサージュ」「スワロフスキーのブローチ」クラフトするおばさんに渦巻く欲求
■同じ物作りでもゴールは異なる
では、「おかんアート」と、「非おかんアート創作物」(とりあえず販売目的のものは省く)との共通点は何でしょうか。
一つ目。いくつになっても人間は「仕事」がしたいということです。それも押し付けられてではなく、主体的に。人の下で働くのではなく、自分が采配を取って。事務的ではなく、創造的な仕事を。アイデアを考え、計画を立て、必要経費を見積もり、材料を集め、持てるスキルを生かしてコトに当たる。「企画」から「納品」まで全部自分1人。失敗したら自己責任。でも完成した時の満足感と達成感は何ものにも代え難い。家でできるクリエイティブな作業は、おばさんにとって理想的な「仕事」です。
二つ目。手作業で物を作るとは「世界に1点だけのオリジナルを作りたい」という願望に支えられています。私は世界に1人だけ。その証拠を具体的な物として、何らかの痕跡として残したい。それは人間にとって普遍的な欲求ではないでしょうか。幼い子どもがクレパスを握って落書きを始めたり、釘で壁に傷をつけてみたりする時も、同じ衝動に突き動かされています。世界に対して弱く受動的な自分を、物に働きかけることによって能動的な自分へ作り替えようとする試み。おばさんの物作り衝動は、実に原初的なものなのです。
ただし「おかんアート」はほぼ屋内にとどまり、居住空間を自己満足で満たすもの。家族に無視されても「何これ?」と言われても、あまり気にしません。だって「アート」ですからね。
が、「非おかんアート創作物」は屋内だけにとどまらず、外で人の目に触れようとします。一般の商品レベルを横目に見ながらセンスやクオリティをある程度高めているだけに、他者の視線を気にし、評価を大いに期待しています。「仕事」の報酬は他人からの「いいね!」です。自分を丸ごと肯定されているというその充実感こそ、お金で得られないものだと、おばさんはよく知っているのです。
大野左紀子(おおの・さきこ)
1959年生まれ。東京藝術大学美術学部彫刻家卒業。2002年までアーティスト活動を行う。現在は名古屋芸術大学、トライデントデザイン専門学校非常勤講師。著書に『アーティスト症候群』(明治書院)『「女」が邪魔をする』(光文社)など。共著に『ラッセンとは何だったのか?』(フィルムアート社)『高学歴女子の貧困』(光文社新書)など。
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