「手作りコサージュ」「スワロフスキーのブローチ」クラフトするおばさんに渦巻く欲求
少女から女性へ、そしておばさんへ――全ての女はおばさんになる。しかし、“おばさん”は女性からも社会からも揶揄的な視線を向けられる存在でもある。それら視線の正体と“おばさん”の多様な姿を大野左紀子が探っていく。第2回は「クリエイティブな中年女性」。
モノを創るのが大好きなおばさんは多い。また個人的な話から始めますが、結婚した当時、和裁の先生で縫い物全般が大好きな義母が、鍋つかみや鍋敷きや状差しやポーチなどをたくさん作ってくれました。気持ちはありがたいけど私の趣味とはちょっと違う、しかし「いりません」とも言えず……ということで、それらは半年くらいすると押し入れにしまい込まれ忘れ去られていきました。
ご多分に漏れず、義母は「おかんアート」制作者でもありました。「おかんアート」とは中高年の主婦が端切れや身近な紙類などを利用して創作したクラフトのこと。レースのドアノブ飾り、パッチワークの家電カバーは言うに及ばず、端切れのぬいぐるみ、和紙の造花、何と名付けていいかわからない毛糸のオブジェ……。義母以上にクラフト創作が好きな義母の姉宅に行くと、家中が見事な「おかんアート美術館」と化しており、そこから発散される尋常ならざる熱量に当てられて長居できなかったのを覚えています。
地方の町の古い喫茶店やスナックでも、インテリアに微妙にそぐわない「おかんアート」系のオブジェやリースを目にしたことがあります。あれは近所の主婦(あるいは店主自身)が量産しすぎて自宅に置けなくなったのを、持って来ているのではないか。「おかんアート」は手仕事好きな主婦をはめる力があり、周囲をありがた迷惑的に侵食していくものです。
と、そんなふうに「おばさんの創作欲」を引いた視線で眺めていた私ですが、今、昔の義母たちの年齢となった同世代を見渡してみると、やっぱりそっち方面に走っている人が目につきます。「その布バッグ、可愛いね。どこで買ったの?」「自分で作った」。ちゃんと裏地や内ポケットまで付けた本格的な仕上がり。そんな友人の1人が作ってくれたコサージュを付けて電車に乗っていたら、隣の席のお年を召した婦人に「それ、素敵ねぇ。ご自分で作ったの?」と聞かれました。いとこの奥さんは織物教室で目覚め、自宅に織機を入れて日々ショールやブランケットの制作に励んでいます。仕事で忙しい別の友人は、「こないだちょっと暇ができたから、スワロフスキーのブローチを作ったんだ。時間があったら取り組みたいものが、いろいろあるんだよね」と楽しそうに話してくれました。
絵画教室をやっている美大出身者に聞くと、生徒は中高年女性と退職した男性が中心。手作り品のネット販売サイトでは、一般の女性の手によるプロ並みの品が安価で売られています(私も購入したことがあります)。母たちのような「おかんアート」には嵌るまい、でもモノは創ってみたい、できれば人に「センスいいね!」と言われるようなモノを……という欲求が、いろんな形で噴出している模様。