百田尚樹は大手書店員招き「決起集会」も……「本屋大賞」の血みどろ集票合戦
先日、2015年の「本屋大賞」候補作10作が決まった。全国の書店員が「自分の店で売りたい・薦めたい本」に投票して選ばれる同賞は、「売り場からベストセラーをつくる」をモットーに04年からスタート。今では芥川賞や直木賞を抑え、「売り上げに最も影響を与える賞」(出版関係者)とまでいわれている。
「本屋大賞は設立当初、『博士の愛した数式』(小川洋子、新潮社)や『夜のピクニック』(恩田陸、同)など、隠れた名作を見いだしたことで注目度を上げてきました。普段、あまり本を買わない層へも訴求力が高く、受賞作の映画化も多い。“本屋大賞候補作”と帯に入れるだけで売り上げが伸びるため、今ではノミネートされた途端に各作品、重版が決まるほどです」(同)
そんな影響力の高さゆえ、各出版社は毎年、裏で「血みどろの集票合戦」を繰り広げているのだとか。大手書店チェーンのトップを招いた接待から地道な書店めぐりまで、やり方はさまざまだが、中でも作戦が功を奏したといわれているのが、11年に大賞を受賞した東川篤哉の『謎解きはディナーのあとで』(小学館)だという。
「本屋大賞に投票するには、ノミネートされた全作を読んでいることが条件ですが、書店員個人で全て揃えると2万円超えの出費。小学館はそれを見越し、東川に投票してくれそうな書店員には、全候補作セットでプレゼントしまくっていたそうです。さらに、小学館の社員が直接、東川の出身地・広島県での書店行脚を行ったそう。地方まで在京出版社が営業に来ることはほとんどないため、感激した地元書店員が大勢、東川に投票し、受賞につながったといわれています。昨年受賞した『村上海賊の娘』(新潮社)の和田竜も広島育ち。新潮社が東川のときの例に倣い、広島で営業したところ、見事受賞しました」(同)
このように出版社主導の作戦が多い中、作家自身が大張り切りだった例も。それが、今では故・やしきたかじんさんをめぐるノンフィクション本『殉愛』(幻冬舎)騒動ですっかりお騒がせ作家となっている百田尚樹だ。
「13年に『海賊とよばれた男』(講談社)で大賞を受賞した百田ですが、ノミネートされると自ら書店めぐりを開始。また、大手書店の書店員らを招いた“決起集会”まで主催し、『清き一票をお願いします!』と政治家さながらの演説を行ったそうです。『賞なんて興味ない』と言っていた百田の、言葉と正反対の振る舞いは失笑も集めていたそうですが、結果、受賞を射止めたため、万々歳だったとか」(文芸編集者)
埋もれた名作を世に広めるための賞だったはずが、こうした過剰営業のため「今ではすっかり当初の意義を失いかけている」(同)との意見も。今年の候補にも、直木賞受賞作『サラバ!』(西加奈子、小学館)や、「このミステリーがすごい!」1位の『満願』(米澤穂信、新潮社)など、すでにヒットしている作品がずらり並ぶ。果たして“集票合戦”を制するのはどの作品になるのか注目したい。