仕事のように親の介護にのめり込む夫、退職後は「介護のための単身赴任みたいなもの」
■実家に単身赴任した夫
それからしばらくして、夫は勤務先を定年退職し、関連の会社に再就職した。
「働く場所がある間は少しでも仕事をしておかないと、私たちの老後資金も必要ですからね。ただ、それまでのように深夜まで仕事をするということもなくなりましたし、役職もなくなって、精神的には楽になったようでした」
夫は、それまでの仕事人間から、少しずつ変わっていった。仕事を完全にリタイアした後のことを考えるようになったのだろう。ずっと中断していた昔の趣味を再開し、それまで秋田さんに任せっきりだった家事も手伝うようになったという。
「ほんの少しですけどね(笑)。義父母の関係を見ているうちに、自分のことを振り返ったんじゃないでしょうか。このまま年を取っても、義父と同じになってしまうって。義父は義母がホームに入った後も、変わらず頑固でしたが、それでも自分の身の周りのことは少しずつ自分でやるようになりましたね」
とはいえ、義父もさらに高齢になり、だんだん体力の衰えが目立つようになった。秋田さんは、また忙しくなった。義母のホームに顔を出し、義父宅に寄って掃除や洗濯などたまった家事を片付ける。そんな通い介護が、さらに3年続いた。
そして、昨年、夫は再就職先をリタイアした。63歳。まだ働こうと思えば、働ける年だ。しかし、夫は完全リタイアを選択した。
「正直ずっと憂鬱でした。介護ではなく、主人が退職後、毎日ずっと家にいることがです(笑)。それが、幸か不幸か、義父の介護という大仕事が主人を待っていたんです。退職後、主人はほとんど実家で生活しています。もともと真面目で、のめり込むタイプの人でしたから、介護も仕事のように取り組んでいるようです」
夫もリタイア後、何をして過ごせばいいかわからず、不安だったのだろう。それを父親の介護が消してくれたのだ。
「介護が今の主人の生きがいですね。だから、ありがたく任せておこうと思っています。おかげで私はすっかり楽になりました。主人が単身赴任しているようなものですからね。今は時々様子を見に行って、主人ができていない家事を補う程度で済んでいます」
といっても、そんなに簡単に一件落着とならないのが介護。先日、義父は心臓の手術を受けたという。
「もう92歳ですからね。こちらも覚悟はしていたんですが、病院は高齢だからといって、そうそう楽をさせてはくれません。退院目指して毎日リハビリですよ。90歳過ぎても、いえ、死ぬまでがんばらないといけない。老人も大変なんですよ」
58歳の秋田さんも、63歳の夫も、まだまだがんばらないといけない。先は長い。それが高齢化社会の定めなのだ。