なぜ渡辺満里奈は「ウットリ」と「ゲンナリ」の狭間に漂うのか……その答えは「育自」にあった!
「私は未来を抱いている。見るもの、触れるもの、かぐもの、聞くもの、味わうもの。すべてが新しい経験をしている彼は、未来に続いている。私は地球の未来を担うものの、成長の手伝いをする。その手伝いができることに、このうえない喜びを感じる。未来、そして可能性そのもののまぶしい存在を感じながら生きられることはとても幸福だ」
山田まりやの「地球を護る」発言に続き、またもや「地球」が……! 子育てをすると人は地球規模のなにかを感じずにはいられなくなるのでしょうか。子育てを「未来を抱く」と表現し、自分は地球の未来を担うものの手伝いをしていると結論づける。そんな“育児の理念化”がもうすごい。本来ならば理屈の通じない、矛盾だらけの生き物である赤ちゃんを己のロジックですべて解き明かしてしまうのです。名探偵・満里奈の鮮やかな論理力に意識高めママたちは「うっとり」、“赤子なんざ股からおっ出たら他人の始まり”と考える肝っ玉系母さんたちは「うんざり」することでしょう。よってストイックお母さん度は★8つ。
ていねいな暮らしを信条とする満里奈にとって、もちろん育児もナチュラル&本物至上主義。そのアイコンこそ“オーガニックコットン”です。洋服はもちろん、おしり拭きまでオーガニックコットンを使用。せっかくオーガニックに育てられたというのに、ウンチを拭いて捨てられるとは悲しいさだめ。また満里奈のさりげな本物志向は「お食い初め」でも発揮されるのです。
「わが家は、大人になるまで長く使える飽きの来ないものを使わせたいので、塗りのおわんはすでにそろえていた」
日本古来の文化伝統を守り抜くというのも、“ナチュラル系子育てあるある”です。さらに「心と身体はひとつ」と産後2カ月でピラティス再開。体のメンテナンスは「自分のためでもあり家族のためでもある」と豪語します。その一方で薬をはじめとした西洋医学は頑なに拒否し、自分の風邪も「腰湯」で汗を流して治すそうです。『育自道』に垣間見える“自然で本物のものこそ、子どもにとって最上である”という信念。さらにそこに付け加えられる「(ナチュラル志向は)子育てのためではなく、これが私のスタイルだから」という謎のエクスキューズ。「なぜ土鍋でおかゆを炊くのかというと、簡単だから。子どものために手をかけているわけではない」といった言い訳が随所にちりばめられています。そこにはおそらく“母であると同時に1人の女性である私”という女性誌が大好きなポリシーがあるのでしょうが、ひとつ言わせてください……「母」持ち出さなくても、いいんじゃね? ということでナチュラル度も★8つ。
「実は子どもが苦手だった」「(赤ちゃんのお世話など)自分とは関係のないことと決め込んでいた」満里奈が、産後まもなく「産めば母親になれるわけではないのだ。母になる努力をしてこそなのだ」と思い立つ。子育てって発見がいっぱい! 成長できるチャンスがいっぱい! そうです。満里奈は育児そのものというより、育児をしている自分が好き。育児で成長している(と感じている)自分が好き。しかし「成長」には今までの自分を変えるという側面もあるのに、たとえば遅々として進まない離乳食を母親から指摘されても「おいおい考えていこうかな、とマイペースを貫くつもり。人の意見を聞くのは大切だけど、すべてを受け入れていたら何がしたいのか、何が子どもや自分にとっていいのかわからなくなってしまうので」とキッパリNO。その強烈な自己愛に「成長」という言葉も霞みます。よって自分大好き度は★9つ。
謙虚に振る舞いながらも自分の主張を曲げない、自分を変える気がないのに“成長”は欲しがる女・満里奈。「自分」を持ちすぎた大人の女性が、子育てという未知なる領域に振り回されることに(無意識的に)耐えられず、子育てを「理念化」して自分サイズに作り変えることこそ、満里奈のいう「育自」なのでした。それは「がんばらない育児」をがんばってしまう母親たちには大いなる理想郷に見えるでしょうし、「子どものケガなんてツバつけときゃ治る」ママたちにはただひたすら疲れる世界。叩かれるわけでも嫌われるわけでもない。でもなんとなく距離を置いたほうが精神衛生上良さそう。渡辺満里奈というタレントが「あこがれ」と「げんなり」の狭間にいる理由が、この本でなんとなくわかったような気がします。(西澤千央)