大久保ニューの【美のぬか床】 第19回

美肌信仰と巨根崇拝は同じ? SK‐2コスメカウンターで感じた、“美肌”に狂う女心

2014/12/08 21:00

 「25歳」という表示に固まる場内。1カ月で肌年齢が1歳上がってますけれど、これって……? しかし、さすがは百戦錬磨のお姉さん、「先月とは空気の乾燥が違いますから」と強気の笑顔。その笑顔は「SK‐2を使ってなかったら、もっと大変なことになってたぜ? な?」と、こちらの疑惑を上から押しつぶしてくるような貫禄があった。SK‐2を信じたい我々は「なるほど~」と納得してみたが、この構図って宗教めいてるね……。

 そして「キメ・ハリ・シワ・くすみ・ツヤ」をグラフで見ながらのカウンセリング……という体のセールストーク。J子は別の測定器を顔に当てられ、「隠れているシミ予備群」の図を見せられて驚愕&恐怖に陥っている。でも、こうして脅している美容部員さんたちの方が、「メークが崩れたら職がなくなる!」という何十倍もの恐怖と戦っているのだろう。そしてこんな恐怖は、ほとんどの男は感じなくても生きてゆけるんだろうなあ……カウンターに並ぶお姉さん達のファンデで隠しきれていないシミを見ながら感慨にふける。

 カウンセリングの途中、「肌の調子が悪くならなくて、ずっと調子が良いという状態に困惑されるお客さんがいます」という説明があった。「だからSK‐2を使い続けろよ? な?」ということなのだが、とある女友達の顔が浮かぶ。彼女はあまりにも片思い歴が長くて、本当は恋人になりたいはずだったのに、いざ相手が振り向くと怖くなり「片思いをしていてこそ私」という人格になってしまったのだ。美肌を求める女は「肌コンディションに不安を感じていてこそ私」なのだろうか。アイデンティティにも善し悪しがあるものである。

 結局、シートマスクをJ子が購入して、肌診断終了。「マスクをすると、ガツンと来るんですよね!」というJ子の言葉には、私も激しく同意したい。「使用後の肌のふっくら&しっとり感は、毎日でも体験したいくらいだ。しかし、やっぱりSK‐2は高い。6枚で1万円だもの! まあ、1枚1,700円だからこその「一発キメてやったぜ!」という高揚感が得られるのだけれど。そして、 高揚した消費の後にやってくる反動だろうか、その後、打ち合わせに入った店(もちろんサムギョブサル)で、「どうしてこんなに美肌を求めてしまうんでしょう……」と、J子のダウナーなインナートリップが始まった。同行しないといけないらしい。

 「美人の友人からは『面積で考えたら、金をかけるなら肌より髪や服』って言われるんですけど、私はどうしても美肌がほしくて……」「男が『あの女の肌、汚いよな』とか言ってるのを聞くと、殺意が込み上げてくるんです……」「美肌っていうのは女の聖域だと思うんですよ!!」「さっき、カウンターで隣りの席にいた地味な女子、私より肌の数値が高かったんです……」「あの地味女子の満足げな顔ったら!!」暗くて熱い美肌語りは止まらなかった。話を聞きながら、ふと気づく。「美肌信仰」の女って、「巨根崇拝」の男と似てるんじゃない?


 ほかの部分がどれだけ良かろうと、どうしてもコンプレックスを感じてしまうことは、他人の慰めなど何の効果もない。そもそもコンプレックスは何でもそんなものかもしれないが、聖域とまで高められた「美肌」へのJ子の執着を和らげるものの対比として、「巨根」の例を出したのは効果があったかもしれない。深刻な表情だったJ子は「大事なことはそこじゃないだろって感じが一緒ですね☆」と爆笑してくれた。「そういえば私、SK‐2の215mlのビンを初めて手にしたとき、『巨根!』って思ったんですよー☆」と楽しげに肉を頬張っている。下世話な会話も、気分を高揚させてくれるという点では「美容品」と言えるのかも。

 それにしても、今日のデパートでフロアーマップを見て思った。ほとんどは女のための売り場なのだ。それだけ商品があるということは、その数だけ「それを手にしてどうにかしたい!」とか「それをたくさん手に入れなきゃ!」というコンプレックスや執着があるということだ。本当に女であるということは大変だなあと、つくづく思った。しかし、日本女性は世界一の平均寿命だ。その執着こそが若々しく生きてゆく源なのかもしれないね☆

大久保ニュー(おおくぼ・にゅー)
1970年東京都出身。漫画家。ゲイの男の子たちの恋愛や友情、女の赤裸々な本音を描いた作品を発表。著書に『坊や良い子だキスさせて1』(テラ出版)、『東京の男の子』(魚喃キリコ、安彦麻理絵共著/太田出版)などがある。
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最終更新:2019/05/14 20:21
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