カルチャー
米澤泉氏の「不思議ちゃん」考

戸川純、椎名林檎、大森靖子――“性”を歌う不思議ちゃんが勝ち得た、女子の生き方とは?

2014/12/14 19:00
きゅるきゅる』/avex trax

■10年代の「絶対少女」大森靖子  
 2014年、戸川純、椎名林檎のDNAを受け継ぐ新型不思議ちゃんがメジャーデビューした。

「月経周期 基礎体温 全部知ってる大きな愛を
今日は誰にも邪魔させないのだ」(「あまい」より)

「激情派ガーリーシンガー」などと称される大森靖子は、その作品やパフォーマンスの中に戸川純や椎名林檎に通じる「レディヒステリック」で「エキセントリック」な側面を持っている。だが、何よりも注目すべきはそのガーリーさだ。

 彼女は、昨年末に出したアルバム『絶対少女』において「すべての女子を肯定したい」と言う。そして蜷川実花に、AKB48の誰かがファッショナブルに変身したかのようなニナミカ的ガーリーフォトを撮ってもらうのだ。確信犯的に「女子」を着て、「女子」を歌う新型不思議ちゃん・大森靖子のガーリーな世界観は、もちろん歌詞にも色濃く反映されている。

「ディズニーランドに住もうとおもうの」(「絶対少女」より)
「桜が終わって40デニール」(「Over The Party」より)

 こんな歌詞は「女子」でなければ書けないし、「女子」でなければその意味すら理解できないだろう。だが、ここに描かれているのは普通の女子の姿であって、そこから際立とうとする不思議ちゃんではない。あえて大森靖子が「すべての女子」を肯定するのはなぜなのか。不思議ちゃんとは、「あたしは普通の女子とは違う」というむしろ普通の女子からの差異化戦略ではなかったか。その点について、大森靖子は次のように語っている。

「『私じゃなきゃいけない意味をどうにかしてつくんなきゃ』っていうスタンスが、『誰でもいいなら私でいいじゃん』になりました。もっと自由になれたし、もっと孤独になれたんです。だからすごくこれから楽しみです」(メジャーデビューシングル「きゅるきゅる」2014年9月18日発売に寄せたメッセージより)

 「私じゃなきゃ」から「誰でもいいなら私でいいじゃん」へ。大森靖子の「転向」こそが、今を表している。三十路になっても四十路になっても「女子」を着る「大人女子」や「オトナミューズ」たち。ハロウィンで思い思いのコスプレをする、普通の「すべての女子」たち。そんな時代だからこそ、大森靖子はあえて「女子」を着て、「女子」を歌わずにはいられない。みんなが個性的なコスプレをするならば、不思議ちゃんは確信犯的に普通の女子をコスプレせずにはいられない。世間や男の期待を気持ちよく裏切るのが、戸川純から受け継がれた「不思議ちゃん」の使命だからだ。

 不思議ちゃんが誕生して30年。性を歌う不思議ちゃんが勝ち得たのは、「女子」もまたコスプレにすぎないということだった。私たちもまた「女子」を着る「男の娘(こ)たち」と同じなのだ。だからこそ確信犯的に「女子」を着よう、「女子」を生きよう。それが男の幻想に付き合わずに、自意識と個性を保ったまま生きていく有効な「戦略」だと、「女の子は誰でも不思議ちゃん」の時代に大森靖子は「絶対絶望絶好調」に呼びかけるに違いない。

米澤泉(よねざわ・いずみ)
甲南女子大学人間科学部准教授。著書に、『私に萌える女たち』(講談社)『電車の中で化粧する女たち――コスメフリークという「オタク」』(KKベストセラーズ)『「女子」の誕生』(勁草書房)などがある。

最終更新:2014/12/14 19:00
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