カルチャー
『なんかおもしろいマンガ』あります ~女子マンガ月報~【11月】後編

宝塚・アイドルへの祝福にあふれる『かげきしょうじょ!』、今こそ読むべき名作の予感

2014/11/20 21:00

女子マンガ研究家の小田真琴です。太洋社の「コミック発売予定一覧」によりますと、たとえば2014年10月には997点ものマンガが刊行されています。その中から一般読者が「なんかおもしろいマンガ」を探し当てるのは至難のワザ。この記事があなたの「なんかおもしろいマンガ」探しの一助になれば幸いであります。後編は単行本。10月のオススメと11月の注目作をご紹介します。

【前編はこちら】

【10月のオススメ】『かげきしょうじょ!』2巻、宝塚歌劇団100周年を祝うにふさわしすぎる名作の予感

『かげきしょうじょ!』2(集英社)

 美少女にして無表情、そして孤高で不器用。どこか脆く影があり、しかしたまに見せる笑顔が抜群にかわいい。「ツンデレ」という言葉では説明しきれないほどの強い魅力を放つキャラクターが、斉木久美子先生の『かげきしょうじょ!』(集英社)に登場する奈良田愛です。病的なまでの男嫌いがたたって、握手会で「はなしてキモチワルイ…」とファンに言い放ち、アイドルグループ「JPX48」を脱退させられた彼女は、「男がいない生活」を求めて、宝塚音楽学校をモデルにしたと思わしき「紅華歌劇音楽学校」へと入学します。

 そこで出会うのがもう1人の主人公、渡辺さらさ。単純で直情的、前向きで明るくきらきらとした瞳を持ち、スタイルと身体能力に恵まれた彼女は、奈良田愛とはほとんど真逆のキャラクターです。「いずれはオスカル様になるために来たんですし!」と、なんの躊躇もなく言ってのける空気の読めなさ加減で周囲からはやや浮いていますが、そんな彼女が奈良田愛は気になって仕方がない様子……。

 奈良田愛の過去が物語られた2巻では、それぞれのキャラクターの深みがぐんと増して、ストーリーのギアが数段上がった印象です。ごくごくシンプルなパーソナリティに見えたさらさにも、どうやら過去には何事かあった模様。「ねぇ、忘れたいのに忘れられない嫌な思い出は、どうしたらいいの」と問う奈良田愛に、さらさはこう答えます。「それについては、さらさはまだ15年しか生きていないので、まだまだ修行中の身ですが」「忘れる事は出来なくても、毎日楽しい事や夢中になれる事を新しく思い出にして、何度も何度も上書きしていってつつみ込んでゆけば、少しずつ薄くなってゆくのではないかと」「思ったりします」。そう語るさらさの表情を、斉木先生はあえて描きません。

 アイドルや宝塚を愛でる私たちは、舞台の上の彼女たちの芸や人生を消費しながらも、どこかで「圧倒的な何か」によって、良い意味での裏切りにあうことを祈念しています。それは消費/被消費という関係性を超えた、奇跡のような高揚感と一体感。『ガラスの仮面』(白泉社)や『ライジング!』(小学館)などの先行する名作たちのように、本作もまたそのような感覚を、バーチャルに味わわせてくれるに違いありません。

 ほしよりこ先生の『逢沢りく』上・下巻(文藝春秋)には、すっかりやられてしまいました。ギクシャクとした親子関係の改善を意図してか、なぜか唐突に関西の親戚の家にホームステイさせられることになった主人公。絶世の美少女である彼女はいつでも自在に泣けるという特技を持ちますが、本心から泣くことは決してありません。そんな彼女の頑なな心が、関西弁にまみれるうち、密やかにゆっくりと変質していきます。

 正直申しましてオチは途中から見えてきてしまうのですが、それでもラストには圧倒的な感動が押し寄せます。それも全て抑制の効いた、丁寧で緻密な心理描写あってこそ。サライネス先生や鳥飼茜先生らの諸作品と並んで「関西弁マンガ」としても出色です。決して自分のためではなく、誰かのために流す涙は美しい。何度でも読み返したくなる美しい物語です。

 10月は豊作でした。教授と学生の年の差恋愛を描いたアキヤマ香先生の『長閑の庭』1(講談社)も、今後が楽しみな作品の1つです。ぜひ。

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