「婦人公論」矢口真里のお詫びよりも深刻な、シングル・ファザーの差し迫った現状
しかし「きっかけを作った私が、100%悪いのですから」「二人ともまだ子どもで、わがままな部分が多かったのです」「よい妻になれなかったこと、これは中村さんに対して申し訳なかったと思っています」というような表現に、矢口のささやかな抵抗というか告発を感じるような気もします。なにはともあれ、この件の真相は芸能界という大きなうねりに飲み込まれていったということ。「できれば『温泉旅番組』とかほのぼの路線をやりたいな……(笑)」と言ってましたけど、今の矢口っちゃんが出ても全然“いい旅夢気分”になれないよっ!!
■「男らしさ」に苦しめられる父親たち
さて、矢口騒動ほどセンセーショナルではなかったものの、今年一番ゾワッとした離婚劇といえば中山美穂と辻仁成。現在は中山が新恋人とラブラブ、そして辻仁成はシングル・ファザーとして生活しているようです。辻が息子を引き取ったことで、にわかに注目を浴びている「シングル・ファザー」についてのルポ「それでも弱音を吐けないシングルファザーの知られざる苦難」を見てみましょう。
貧困問題などで母子家庭の窮状はたびたび取り上げられますが、ルポでは父子家庭もまた「隠れ貧困」であり、社会的に孤立しているケースが多いと伝えています。自身もシングル・ファザーであり、父子家庭を支援するNPOを運営する片山知行氏いわく、「日本には、子育ては女性がするものという意識が強く残っています」。例えば、児童扶養手当が長らく父子家庭には支給されなかったり、企業では「男性上司のほとんどが子育ての現実を知らないので、子どもが突然熱を出すとか、風邪をひいただけでも長期の看病が必要であることが理解できない」。
さらに格差は自治体間でも。ルポに登場した岩手県在住のシングル・ファザーは「東北は子育て支援がとても遅れていて、二戸市には病児保育施設もありません。ひとり親家庭には絶対必要なのに」と、母子家庭も父子家庭も変わらぬ困難な育児の様子がつづられています。
その両者に違いがあるとすれば、「男性の多くは弱音を吐くことを嫌うため、シングル・ファザーになっても窮状を訴えないケースが多い」という部分ではないでしょうか。家事や育児の全てを妻に託していたため、お金の管理も子どもを泣きやませることもままならず、精神的に追い詰められていく。「すごく話を聞いてほしいのに、自分から聞いてくれとは言いにくい。本当は自分の弱い部分を外に出したいのですが、そもそも弱音を吐く相手は妻だけだったのです」。妻たちは友達やご近所さん、そして“中年女性たちのSNS”こと「婦人公論」など愚痴を共有できる相手は多種多様。だけど夫には、その術がないのだな……と、あらためて痛感。男性週刊誌は老いらくのセックス特集ばかりやっていないで、男性が弱音を吐けるような企画を提案すべきじゃないですか?
弱音を吐けないシングル・ファザー、詫びるしかない矢口……世の中は言葉にできない感情に満ち溢れていると感じさせられた今号。しかし最も“言葉にできない”だったのが、不倫休業を詫びる矢口のページの次に、伝説の歌手・山口百恵と円満な家庭を築いた、俳優・三浦友和のインタビューを載せてたとこですよ! 「夫婦というのは、苦難を通じて絆を強めるのではないかと思うのです」と語る三浦。こういう遊びをしれっとしちゃう「婦人公論」に死角ナシといったところでしょうか。
(西澤千央)