「東京/地方」「夢/仕事」は、対立ではなく地続きな問題と教えてくれる4冊
■『夢、死ね! 若者を殺す「自己実現」という嘘』(中川淳一郎、星海社新書)
女性の「勝ち組の王道」が、「結婚も子育てもして、なおかつ自然体に若々しく美しくあること」だとすれば、男性にとってのそれは「年収」や「高い地位」――ではなく、「大きな夢をかなえること」なのかもしれない。そんなことを考えさせられるのが『夢、死ね! 若者を殺す「自己実現」という嘘』だ。
「夢、死ね」と極端に強い言葉が使われているものの、本書で語られるのは、極めて真っ当で現実的な仕事論だ。大きな夢を持ち、かなえることの幸福が過剰に供給される一方で、夢を見る前に現実を知ることの大切さが忘れられがちな現代。博報堂を退社し、ネットメディアの編集者として活躍する中川氏が、自身の現場での体験を通して、「人は怒られないために仕事をしている」「金を持ってくる人が一番偉い」などなど、キレよく、時にあえて暴論を挟みながら、働くことの現実を語っていく。
広告代理店のような一見“あこがれの仕事”でも、現実にはへりくだって、自分が悪くなくても頭を下げなければ立ち行かない時がある。それは、仕事を通してカッコいい自己実現を望む人にとっては、「負け」と映る働き方かもしれない。中川氏はそんな読者の視点を踏まえた上で、負けたその先に続く、泥臭く真剣に取り組むことでしか味わえない楽しみがあることを伝えようとしている。
全体を通して、どちらかというと男性に向けられた仕事論ではあるが、「夢を諦めたらそこで負け」「プライドを曲げたくない」といった自意識に縛られて動けなくなっていることを自覚する人なら、暑苦しいほどの熱を持った中川氏の言葉の数々が、自分をほどく助けになるだろう。
■『パリの国連で夢を食う。』(川内有緒、イースト・プレス)
『パリの国連で夢を食う。』は、コンサル会社やシンクタンクで、主にリサーチャーとして勤めていた31歳の女性による海外生活をつづったエッセイだ。ほとんど衝動的に応募した国連機関の就職募集に合格し、パリで働きながら、父親の死や結婚を経て、自分をあらためて見つめ直し、新たな道に進むまでの5年半がつづられている。
世界を飛び回り、バリバリと現場で働くことをイメージしていた川内氏にとって、予算と会議と書類が重要視される現実の国連は、意外なほど穏やかなものだった。それでも、彼女が描く、さまざまな国の個性豊かな同僚たちとの日々は、日本の価値観に慣れきっている私たちの視界をも広げてくれる。
タイトルも内容も、『夢、死ね!』と真逆なようでいて、実際に自分で動いて体験している人ならではの説得力で、「自分の知っている価値観だけが世界の全てではない」と自然に思わせるところは共通している。自分の意思で未知の世界に足を踏み入れることの緊張と楽しさを伝えてくれる一冊だ。
(保田夏子)