「化粧水の浸透力アップ」を謳う導入液に潜む、「実は水分も油も奪う」という落とし穴
「肌がゴクゴク化粧水を吸い込む感じを得られる」使用者からそんな感想が聞こえてくる、近年にわかにブームの「導入液」。「プレ化粧水」「拭き取り美容液」「ブースター」などといった名称でも呼ばれ、美容好きの間ではすでに定番アイテムと化している。導入液は、「導入」という言葉の通り、化粧水の前に使うことで、肌により水分を入れてくれるアイテムというが、果たして本当に美肌作りに欠かせないものなのだろうか。化粧品開発者の尾崎幸子さんにお話を聞いた。
――最近、「導入液」という名前で販売されているアイテムが目立っていますが、まず成分的な観点から、導入液とはどういったものなのでしょうか。
尾崎幸子さん(以下、尾崎) 実はスキンケアアイテムには、表示における成分上のルールがなく、「メーカーが導入液と明記したら導入液」になるんです。しかし、実際に導入液と呼ばれるものの成分を見ていくと、「肌にすっと化粧水が馴染むようにしよう」とする配合になっています。
――それは「角質をやわらかくする」ことにより、化粧水を入りやすくするということでしょうか。
尾崎 角質をやわらかくする成分は、導入液以外でもよく使われていますが、効果を得るためには、長期間使用しなくてはなりません。導入液使用後すぐ「化粧水が肌にすっと馴染む」ように感じるのと、角質をやわらかくするのとは、また別の話です。ではその「使用後すぐに」という点で、導入液がどんな働きをしているのかというと、肌の上にある油分を取っているんです。水と油ははじき合ってしまうので、油を取ることで化粧水の浸透を促進させているわけです。さらに導入液は、肌の水分をも取ることで、同様の効果を与えています。
――水分を奪ってしまうと聞くと、いかにも肌に悪そうな感じがします。
尾崎 肌から水分が奪われた分、化粧水の浸透がよくなるという理論です。導入液は、イメージ的には、顔を洗って表皮上の水分油分を取り除くということと似ています。
――導入液をつけると、注射前の消毒のようなスーッとした感じがしますが、これは水分や油分を取っているからでしょうか。
尾崎 そうですね、それはアルコール成分や界面活性剤によるものでしょう。これは一例ですが、アルコール成分には「変性アルコール」や「エタノール」などが挙げられ、親水性(水と馴染む力)が高めで、その後につける化粧水との馴染みをよくする効果が期待できる界面活性剤には、「メチルグルセル-10」「PEG-60水添ヒマシ油」「ポリソルベート20」などが挙げられます。
アルコール成分や界面活性剤には肌のバリアを壊す、要は顔の油分や水分を取る効果があります。特にアルコールは、蒸発するときに肌の水分のほか、表皮の熱をも奪うので、スーッと涼しく感じる効果も。導入液のアルコール成分や界面活性剤が水分を奪った結果、肌に水分が足りない状態になり、化粧水の吸収の“速さ”が速くなるんです。
――それはつまり、導入液によって肌に浸透する水分量も増えるということでしょうか。それならば、肌にとってはプラスですよね。
尾崎 いえ「水分が肌に入った感じがする」のと「実際に水分が肌に浸透する」のはまた別の話。「メトキシプロパンジオール」などのメントール成分を入れることで清涼感を演出し、“肌に水分が入っている感覚”を出しているアイテムもありますからね。そもそも、どんなにいい導入液を使おうが使わなかろうが、個人の肌に浸透する水分量は決まっているため、結果は同じ。導入液を使うことで、水分吸収の速さが速くなるので、「浸透を助ける役割」をするというのは理論的に正しいと思いますが、「より多くの水分を吸収できる」というのは、導入液だけでどうにかなる話ではありません。
――であれば、無理に導入液を普段のスキンケアプロセスに追加する必要もないような……。
尾崎 一概にダメとはいいませんが、製品によってはアルコール配合量が多い成分のものもあり、肌の弱い方には刺激となり、肌荒れを引き起こす原因になってしまうことも想定されます。特に肌荒れを起こしているときには染みると思いますね。また、拭き取りタイプは肌が摩擦され、ダイレクトな刺激になるので、気をつけた方がいいです。
そして導入液という立ち位置の製品は、「肌の油や水分を取ってしまい、化粧水の浸透を促進させる」のが目的のため、保湿力を求められておらず、保湿成分が少なかったり、入っていないという場合も。なので、乾燥肌の方にはツッパリ感が生まれるかもしれません。
――導入液の中には、「乾燥を抑える」と保湿効果を謳っているアイテムもあります。中には、「乾燥を抑える」と同時に「油分を取り除く」と真逆の効果を謳っているものまで。正直、両方は成立しないと思いますが。
尾崎 それは単純に、実際の肌に表れる効果がどうというよりも、乾燥を抑える成分が配合されているという意味でしょうね。謳い文句が矛盾しているのも、どちらの成分も配合されていますよ、ということだと思います。例えば、「変性アルコール」などの油分を取る成分と、「グリセリン」や「DPG」「BG」などの保湿成分がどちらも入っていれば、そういった文言を明記できるので。ただ導入液は、保湿をメインにしていない場合が多いので、これだけで乾燥肌をどうにかしようとは思わない方がよいかもしれません。なんと明記されていても、その後のスキンケアは、きちんとすべきでしょうね。化粧水の代わりにはならないということを、頭に置いておいていただければ。
――尾崎さんのお話を聞くと、導入液を使うメリットが見えなくなってしまったのですが、導入液に向いている人、また場面などはありますか?
尾崎 化粧水が肌に入っていく感覚を得やすいので、化粧水を塗布するのが苦手という方には、おすすめです。また、油分を取り除くので、顔のベタつきが気になる若年層の方にもいいでしょう。「メリットが見えない」とのことですが、うまく使えれば、決して悪いものではありません。ただ、先ほども言ったように、敏感肌の人、肌の調子が悪くなっている人などは、刺激を感じる可能性も高いので、気をつけた方がいいと思う……ということです。肌の状態が「普通」であって、更にひと手間かけてスキンケアをしたいという人向けと考えるのがいいでしょう。
あとこれは私見ですが、油分や水分を取る導入液は、単純に洗顔と同じかなと思う部分が多いんです。なので、洗顔後そのまましばらくスッピンで過ごした後、化粧しなければならなくなったときなど、油分をオフしたい場面で一度導入液を使い、その後スキンケアをするのもいいかもしれません。また、飛行機内など顔を洗いにくい場所でスキンケアをする前に使ってみてはどうでしょうか。
――導入液を試用する際に、気をつけるべきことはなんでしょうか。
尾崎 肝心なのは、この後のケア。メリットもデメリットもあるのが導入液なので、よりしっかりと水分補給をすることを心掛けてほしいですね。ただ、導入液の効果が欲しかったら、洗顔後すぐ化粧水をつけたら同じといえるかも……。使い方が比較的難しいので、無理に導入液を使用せず、その分、ほかのアイテムにお金を使ってもいいと思いますよ。
(取材・文=佐川みえい)
尾崎幸子(おざき・ゆきこ)
化粧品開発者/コスメ成分アドバイザー
文系の大学を卒業後、人材ビジネスに10年間従事するも、シャンプーのPRに関わったことを機に化粧品に興味を持ち、大手化粧品メーカーの開発などを手掛ける化粧品開発コンサルタント・岩田宏氏に弟子入り。化学の基礎から化粧品処方までを学び、2013年11月、自ら開発したジェネリックコスメ「MUQ」を発売。自身が皮膚疾患を抱えていることもあり、体に優しく、正しく機能する化粧品を現在も開発中。日々ビーカーを片手に実験に勤しみながら、客観的に正しいコスメ情報を発信すべく、「コスメ成分アドバイザー」としても活動中。
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