通勤の途中で介護する一人息子「自分の親のことだから、妻には負担をかけたくない」
■仕事帰り、父親の家に寄って食事の支度
ある日、父が入院したという連絡が入った。肺炎を起こしたという。
「幸い、病状はそう深刻ではなかったのですが、入院に必要なものを取りに実家に行くと、家がかなり荒れていたのに驚きました。ご近所の方に会ったので挨拶をすると、父のことを心配してくれていたようで、食事もコンビニ弁当ばかりになっていたようでした。これでは退院してもまた同じようなことになるだろうと思い、どうしたらいいのか悩みました」
父親と妻、双方の関係を考え市橋さんが出した結論が、親と住まいの交換をすることだった。父親は退院後介護認定を受け、「要支援」と認定された。それまで市橋さん一家が住んでいた駅前のマンションに住み、ヘルパーに掃除と洗濯をしてもらい、デイサービスにも週1回通うことになった。
「マンションなら庭の手入れなどしなくていいので、父には楽になるでしょう。父は実家を離れることに積極的だったわけではありませんが、私たち家族が住むならと住み替えを受け入れてくれました。実家を手放したり、他人に貸したりするわけではないので、安心したようです。私たち家族にとっても、実家は広いし、近くには緑もある。子どもを育てるにはいい環境だと思いました。駅から遠いのだけが難点ですが、それは私が我慢すればいいんですから」
何よりこの住み替えの目的は、市橋さんが通勤の前後に父親の様子を見ることだった。
「駅から近いので、そんなに無理せずにできるかなと考えたんです。朝は余裕のあるときだけですが、夜だけでも父のマンションに寄れば、父も私も安心できます。私が寄ることがわかっているので、父も楽しみに待ってくれるようになりました。時には一緒に晩酌をすることもあります。そして、夜のうちに父の翌日の朝食を準備してから帰宅しています。朝食といっても簡単なものですよ。これくらいで『介護しています』なんて威張れません。もっと大変な人はたくさんいるんですから」
市橋さんは控えめに言うが、なんの。なかなかできることではない。それも仕事帰りに。それにしても、いくら子どもが小さいとはいえ、妻は専業主婦だ。夫がそこまでやっているのに、妻は子育てだけ? と、つい姑根性で聞いてしまった。
「出張とかでどうしてもしばらく父のところに寄れないときには、妻が行くこともありますよ。でも、自分の父親ですからね。妻にはあまり負担をかけたくないんです。そういう約束で結婚しましたし。やっと人並みに家族ができたのに、奥さんに逃げられたりしたら困りますので」
そう冗談めかして言う市橋さんだが、それが本音なのかもしれない。イクメン、カジダンが当たり前になっている今、妻から夫への期待は高まるばかり。まじめな市橋さんとしては、その期待に応えるべく、少々の無理をしてでもがんばってしまうのだろう。さらに介護まで。自分の親は、嫁ではなく自分がみるという傾向は顕著だ。カイメン(あるいはカイダン?)なんて言葉も普通になっていくのかもしれない。