少女と少年の“ちょっと大人になった”夏が鮮やかに満ちる、『子供はわかってあげない』
女子マンガ研究家の小田真琴です。太洋社の「コミック発売予定一覧」によりますと、たとえば2014年9月には1034点ものマンガが刊行されています。その中から一般読者が「なんかおもしろいマンガ」を探し当てるのは至難のワザ。この記事があなたの「なんかおもしろいマンガ」探しの一助になれば幸いであります。後編は単行本。9月のオススメと10月の注目作をご紹介します。
【9月のオススメ】土壇場で登場した今年のベスト候補、『子供はわかってあげない』
『このマンガがすごい!』(宝島社)などのランキングは大抵が前年の10月からその年の9月までに発売された作品を対象とします。そんなギリギリ9月の、しかもギリギリ月末に発売された田島列島先生の『子供はわかってあげない』上・下(講談社)は、確実に今年の賞レースに食い込んでくるものと思われる大傑作です。
伊藤理佐先生にも近いとぼけた雰囲気の絵で描かれるのは、まずは学校と家庭とを行き来する日常です。主人公は習字教室の次男・ もじくんと、水泳部のサクタさん。アニメという共通の趣味を通じて知り合った2人は、やがて打ち解け、悩みを相談するようになります。サクタさんの今の父親は継父であること。実の父親がどこかにいること。そしてその実の父親から毎年意味不明なお札が送られてくること……間もなく探偵であるもじくんの兄によって発見された実父に、夏休みを使って会いに行くことをサクタさんは決意するのでした。
物語の中核をなすのは、少女と少年のひと夏の冒険です。舞台は日常から非日常へと移り、2人はそこでちょっとだけ大人になるのでした。少女は家族に嘘をついて実の父親に会いに行き、少年は彼女の後を追って非日常へとダイブします(「ああ~~いい…!! 少年が男になる瞬間!」という古書店主・善さんのセリフが大好きです)。この年代は常に少女が先んじて大人になるものなのですよね。謎の新興宗教団体を絡めた、軽いミステリー仕立てで読ませる前半から一転、後半は甘酸っぱいボーイミーツガールの物語に転調し、張り巡らされたミステリー的な伏線が鮮やかに回収されていきます。そしてラスト近くの、マンガ史上最高に美しい告白シーンをお見逃しなく!
池辺葵先生の新作『かごめかごめ』(秋田書店)もまた美しい恋の物語です。修道女の秘めた恋心と後悔、そして生きることの輝き。何かを得て何かを失い、だけどやはり一番大切なことは、たどり着いた場所を肯定することなのでしょう。
河内遙先生の『関根くんの恋』(太田出版)は、最終巻となる第5巻が発売されました。すれ違えばすれ違うほどに明らかになる、関根くんの恋の輪郭。タイトルにふさわしく、最後までその恋の輪郭をトレースし続けた大作となりました。余談ですが、ヒロイン・サラの愛読書は、くらもちふさこ先生の『チープスリル』(集英社)と美内すずえ先生の『ガラスの仮面』(白泉社)と多田かおる先生の『イタズラなKiss』(集英社)だったという事実も判明。とても気が合いそうです。
ほか、萩岩睦美先生の未単行本化短編を集めた『世界で一番大切なひと』(宙出版)、2巻になってますます闇が深まった鳥飼茜先生『先生の白い嘘』2(講談社)などが目を引いた9月でした。ぜひお読みください。