カルチャー
『整理整頓 女子の人間関係』著者・水島広子氏に聞く

嫁姑関係は“夫と姑”の問題。いい嫁願望を捨て、心地よい距離を探るのが賢明

2014/10/23 21:30

――男性が母親との関係に気がつかないのは、なにが原因なんでしょう?

水島 私も息子がいるので思うんですが、息子と母親の関係は特別ですよね。考えていることが全部わかるというか……。娘は神秘的なんですよ、なに考えているかがわからないし。それは娘と父親もそうなんでしょうね。私は自分に息子ができたときに、世間のあらゆるマザコン男性を許すことにしましたね(笑)。やっぱり特殊な感覚ですよ。きっと娘と父親も同じ感覚なのでしょう。異性ということもあるのかもしれない。だから嫁姑が「どっちが選ばれるか」と争うのは不毛。一番は、「大人の男としてやっていくためには、自分の妻と子を守らなきゃいけない」と姑が夫を後押しする形で接してくれるのが望ましいんですが、それが無理だったら、嫁は夫を通して褒めながら姑をコントロールする。

――例えば、妻が夫に「あなたとお母さんの関係が変なのよ」と問題の根本を指摘するのは……?

水島 男性は責められるのがすごく苦手なので、反撃してくるか、家に帰ってこなくなるか、どちらかになると思います。男性は、自分の足りないところを責められるということにすごく弱いですから。

――そうなると、妻が常におもんぱかるということに?

水島 おもんぱかるというか、責めるような口調で言わなければいいと思います。「お母さんと仲が良くてうらやましいけど、うらやましいと感じるときは私が寂しいときだから、こちらのことも気にしてね」とか、言い方なんじゃないでしょうかね。あとは、嫁姑問題の場合、嫁が「いい嫁でいよう」とするからいけないのであって、それをやめちゃうとすごく楽ですね。自分で勝手に無理をしておいて、そのストレスを夫にぶつけても、夫も困る。それより最初から、「私、ズボラだから」で通しちゃった方が環境は安定します。

――妻としては「義理の家族に嫌われたくない」と思うゆえの行動かもしれません。

水島 それでもあんまり頑張らない方がいいですよ。「お母さん、私になんでも言ってください」というのは危険。本当になんでも言われたり、毎日来られたりすることもありますから。「仕事もあるので、どこまでできるかわからないんですけど、なにか困ったことは言ってください」ぐらいの距離を取って、頼まれたときに「あ~、その日は仕事が……」と断っていくとかね。最初に頑張ってしまうと、途中からどこで止めたらいいかわからなくなるでしょう(笑)?

――確かに。でもそうやって無理してやってきたことが積み重なり、「私はこんなにしてきた」という“自負”になることも。

水島 自己肯定感の低い人が多いのかもしれないですね。「このくらいやらないとダメ」と思い込んでいるのかも。自分は働いているけど比較対象は専業主婦の母だと、「母はあんなこともできたのに、自分はできていない」と思ってしまい、自己肯定感を持てなくなることはあると思います。

――義理の家族に対して頑張ってしまう女性は、「家族にならなきゃ」というプレッシャーを感じているのかもしれません。

水島 それ、ママ友の話と同じなんですよ。ママ友も「友」なんて付いているから自分の友達だと認識してしまい、「相手から否定されないようにしなきゃ」と思い込む。義理の親の場合も、たまたま「自分と結婚した相手の親」なんだから、家族にならなくてもいいんですよ。

――一方で妻としても「子どもの面倒を見てほしい」といった“家族”としての期待を持っていて、それが嫁姑問題の火種となるケースもあります。

水島 期待するのに、「お母さんはやり方が違う」とか、言えぬ文句を積み上げていくんですよね。家事や子育てには自分の好みがあるから、違う習慣を持った人を受け入れられないんでしょう。ただ、関係も積み重なっているのにどうしても受け入れられないようだったら、ちゃんと説明すべきなんです。

――たしかに言葉が足らない部分はあると思います。

水島 そう、言葉が足らないんですよ。言わなくてもわかってもらえると思っている。ちゃんと言葉を駆使すると、人間関係は生き延びていくもの。世代が違うのだから、言わなきゃいけないんですよ。例えば、舅が子どもがいるのに煙草を吸う、という場合もきちんと意見を言った方がいい。ただそのときに、ヒステリックに言うのもダメだし、インテリぶって言うのもダメ。一応、相手は目上ですから。

――冗談めかしたり、笑いを交えて言ったりするのが苦手なのかもしれないですね。

水島 基本的に、相手が笑っちゃうような言い方をしていれば大丈夫なんです。あとは夫に言わせるのも手です。ネガティブなことは、他人に言われるのは嫌なんだけど、実の子に言われると意外とちゃんと聞くんです。褒めるのは妻が言うとしても、義理の両親に注文をつけるのは実の子の方がベター。

――義理の親への対応には、そういった、いい意味での“計画”が必要ですね。

水島 関係をどういう方向に作っていくのか、例えば「忙しい」を言い訳にできる関係を作れるかどうか、ある程度のヴィジョンは真剣に考えた方がいいとは思います。現実を観察して、その中で自分が最もストレスなく過ごすためにはどうしたらいいか。結婚したのは夫であって彼の親ではないんだから、義理の両親と相性がいいというのは確率論的には高くない。とはいえ、自分と合わない相手とうまくやっていくというのはストレスですから。後々のトラブルになると大変なので関係の基礎は作りつつ、“互いに居心地のいい距離感”を探る努力は必要だと思います。
(インタビュー・構成=小島かほり)

水島広子(みずしま・ひろこ)
精神科医。対人関係療法専門クリニック院長、慶應義塾大学医学部非常勤講師(精神神経科)、アティテューディナル・ヒーリング・ジャパン(AHJ)代表。2000年~05年には、衆議院議員として児童虐待防止法の抜本的改正をはじめ、数々の法案の修正実現に尽力。

『整理整頓 女子の人間関係』
「嫉妬して張り合ってくる『女』」「ママ友で仲間はずれに」「男性にだけいい顔をする後輩」などの人間関係のつまずきに、それぞれ「とりあえずの対処法」「攻撃を受けない方法」「本来の意味での良い関係を築くには」という3ステップで解説。自身の中に渦巻く嫉妬や被害者意識を癒やし、相手への尊敬と適度な距離感を持つためのアプローチが書かれている。女性だけでなく、男性にも新たな発見がある1冊。

最終更新:2018/07/30 17:55
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