「夫が亡くなったから、今の幸せがある」母と妹を呼び寄せたシングルマザー
■女4人、実家にいた頃の楽しさが戻ったよう
ところが黒沢さんの思惑どおりにはいかなかった。
「思ったよりも母は足腰が弱っていました。家事を任せるのも、心もとないほど。そのうえ慣れない東京のマンション暮らしで、ふさぎこんでしまったんです。正直、母の介護まで引き受ける覚悟をしたつもりはなかったので、こんなはずじゃなかったと思いましたね」
そこで、黒沢さんが取った策は、北海道で一人暮らしになった妹、多恵子さんも呼び寄せることだった。
「うまいことに、と言っていいのか、妹は非正規社員だったんです。だったら絶対に北海道にいる必要もない。東京なら探せばアルバイト程度ならいくらでもあるかなと。妹にそう提案してみると、案外あっさりと私の言うことを聞いてくれました。妹も私たちと一緒の方が心強かったんでしょう」
多恵子さんを呼び寄せたことで、事態は好転した。契約社員だが、多恵子さんの職はすぐに見つかり、母富美子さんも明るくなったという。なにより女ばかりの暮らしは気楽だと黒沢さんは笑う。
「実家にいたときも、父以外は女4人で楽しかったですが、また女系家族が戻ったようで居心地がいいですね。母も明るくなりました。それほど広いマンションじゃありませんが、みんな活動する時間帯が少しずつずれているので、快適ですよ。妹はシフト制の仕事なので、私の勤務と調整しながら、どちらかが家にいられるようにしています。私が遅く出勤できる日は、娘と母が学校とデイサービスに行くのを見送れます。妹が早番だと、母がデイサービスから戻るときには妹が帰宅しています。それから娘が学校帰って来るので、塾のない日は3人で夕食を摂っています。来年には娘が中学生になりますが、娘もだんだん頼りになるようになって来たので、母がもっと弱ってきても戦力になりそうですね。とにかく母のことを私一人で抱え込まなくていいのが気分的に楽。今が一番うまく回っていると思います
あまり先のことを心配してもしょうがないから、せいぜい来年のことくらいまでしか考えない、と黒沢さんは笑う。そして、「夫には悪いけれど、夫が亡くなったから今の生活が可能になったんだと思います。物理的にも、精神的にも」といたずらっぽく付け加えた。はい。確かにちょっとうらやましい(笑)。