「娘だと思われてるがそれでいい」高齢者を支えるボランティアの“犬散歩”チーム
■娘と思われているがそれでいい
犬チーム。ちょっと笑えるが、このチームが受け持っているのは、吉田さんの愛犬サスケ。吉田さんが3年ほど前に足を骨折して入院したときに、千葉さんの会に散歩依頼が来たのだという。
「最初、犬の散歩をするつもりはなかったんです。私たちの活動にはなじまないと思っていました。でも、吉田さんにとってサスケちゃんは家族以上の存在。サスケちゃんが心配で入院もできないとおっしゃるので、引き受けることにしました。吉田さんの入院中だけのつもりだったんですが、退院されてからもとても犬の散歩はできませんから、それから散歩チームができたというわけです。ただ毎日朝晩だと、料金的に吉田さんが大変だから夕方の散歩だけ。毎日1,000円でも年金生活の方にとっては大金ですからね。朝は庭に放して散歩に代えています」
千葉さんグループは、依頼主の家庭環境など込み入ったことには立ち入らないことにしているという。冷たいようでも、しっかり線引きしておかないと、会の存続が危うくなると考えているからだ。
「吉田さんの言葉の端々に、お子さんがいらっしゃるような様子は感じられます。でもどこにいるのか、時には顔を見に来てくれているのかはわかりません。少なくとも、私は一度も顔を見たことがない。それだけに、吉田さんにとってはサスケちゃんが心のよりどころだと思うんですよ。正直、天候が悪いときなど、吉田さんのお宅まで行くだけでも大変です。いっそ私の家にサスケちゃんを引き取った方がずっと楽だと思います。でも、そうしたら吉田さんは本当に一人ぼっちになってしまう。だから、どんなに私たちがきつくても、吉田さんの家に行って散歩するという原則を変えてはいけないんです」
先日、吉田さんはまた体調を壊し、緊急入院することになった。気丈にも自分で救急車を呼んだというが、救急車に乗る前に千葉さんに連絡があり、「サスケちゃんを頼む」と伝えてから病院に運ばれたのだと千葉さんは苦笑する。たしかに吉田さんを支えているのがサスケちゃんなら、サスケちゃんを支えているのが千葉さんたち犬チームなのだ。なんとも頼もしい。
「いやいや、つい情に流されるのよ。それが私たちのいいところだけど、欠点でもあるわね。最近はすっかり頼りにされて、検査結果を聞きに病院について行ったりもしています。お医者さんは私のことを吉田さんの娘だと思っているみたい。私もいちいち説明はしないからね。でもそれでいいと思っています」
千葉さんは、「これから家の犬の散歩をして、吉田さん家の犬の散歩。それが終わると、孫の保育園のお迎えに行きます。今日は娘が遅いから孫にご飯を食べさせないと」と言いながら、あわただしく自転車にまたがった。高齢化日本を支えているのはこんな人たちなのかもしれない。