[連載]ギャングスタのスターたち

死してなおヒットを飛ばす、孤高の天才・2パックの人生を振り返る

2014/10/10 19:00

 映画のおかげで幅広い層に知られるようになった彼だが、一般受けを狙うことなく、「生まれ育ったゲットーは絶対に忘れない」と攻撃的なリリックを書き続けた。92年9月、ファーストアルバムがとうとう店舗での販売停止処分を受けたが、このことでヒップホップ・ファンからはカリスマ扱いされるようになる。93年2月にリリースした、ハードコアな内容のセカンドアルバム『Strictly 4 My N.I.G.G.A.Z…』の売れ行きも好評で、シングルカットされた「I Get Around」「Keep Ya Head Up」はラップなのに、ポップ・チャートで11、12位に食い込む快挙を成し遂げ、アルバムはプラチナム認定された。

[バッシング・評価]

 2パックは、93年後半にラップグループ「サグ・ライフ」を結成。ラジオで聞いて気に行ったノトーリアス・B.I.G.にメンバーになってほしいとアプローチをかけたこともあったが、「忠誠を誓った名プロデューサー、ショーン・コムズがいるから」とB.I.G.には断られる。しかしその後も頻繁に連絡を取り合い、ラップにかける熱い思いを語り合う仲となった。

 映画のオファーは絶え間なく舞い込み、ラッパーとしてのアルバムは飛ぶように売れ、全てが順調に進んでいるかのように見えた2パックだが、ケンカっ早い性格が災いして、頻繁に法的トラブルを起こしていた。92年には銃を発砲するケンカを起こしたとして逮捕。離れた場所にいた6歳の少年が流れ弾に当たり亡くなるという悲惨な事件だったが、後に証拠不十分として起訴は取り下げられ、2パックは少年の両親に和解金を支払った。93年夏には、ギャング青春映画『ポケットいっぱいの涙』撮影中に、監督のアレン・ヒューズと口論になり暴行を加えたとして逮捕され、禁錮15日に処された。同年10月にはアトランタで非番の警官2人に発砲したとして逮捕されるが、これは不起訴に。94年には2人の取り巻き男性と滞在していたホテルに当時19歳だった女性ファンを連れ込み、繰り返しレイプしたとして起訴された。

 女性ファンに対するレイプ事件だが、女性は事件の前にクラブで2パックに合意の上でフェラチオをしたことを認めたため、裁判では「レイプは合意の上での性行為だったのではないか」が焦点となった。しかし、女性が激しく抵抗したにもかかわらず、アナルセックスを含む性行為を強いたのは明らかだとして94年12月1日、有罪判決が下された。 


 有罪判決が下される前日の11月30日、レコーディングの帰りに2人の男に拳銃を発砲され、400万円相当の貴金属を奪われるという事件に巻き込まれてしまった。救急車に乗せられる直前、同じスタジオでレコーディングをしていたB.I.G.とショーン・コムズらが建物から出てくるのを目にした2パックは、「こいつらが仕組んだに違いない」と思い込み、この日からB.I.G.を目の敵にするようになったのだ。

 94年という年は、2パックに対する世間のイメージが悪くなり、批判する声が高まった年でもあった。同年9月ウィスコンシン州ミルウォーキーで10代の少年が警察官を殺害するという事件が発生したのだが、この少年が2パックの「Souljah’s Story」にインスパイアされ警官を殺すことにしたと証言したため、2パックがバッシングされるようになったのだ。レイプ裁判でも女性の敵だと攻撃され、おまけに銃撃され、2パックは周囲の人間に対しても疑心暗鬼に駆られていたのだ。

 レイプ事件の服役として刑務所に入った95年3月、2パックはサードアルバムの『Me Against the World』をリリース。「服役者がアルバムを出すなんて前代未聞だ」と話題を集め、発売開始直後から1位を獲得。母への愛と感謝をラップした「Dear Mama」などソフトな曲も収録されていたことから、新しい層のファンも獲得した。5月には、94年夏から交際を始め、裁判の間ずっと彼を支えてくれた、20歳の女子大学生ケイシャ・モリスと結婚。イタリアの現実主義的政治思想家ニッコロ・マキャベリの本を読み、いたく感銘して「マキャベリに改名したい」と言いだしたのもこの頃で、単調な刑務所生活で少しは落ち着くかと思われた。

 しかし、4月に刑務所内で受けた米老舗ヒップホップ専門誌「VIBE」の特別インタビューで、「B.I.G.やショーンが自分を殺そうとした。だからオレが撃たれた後に『Who Shot Ya?』(誰がオマエを撃ったんだ?)というシングルをリリースしたんだ」と熱く語った記事が、ロサンゼルスのデス・ロウ・レコードの創設者シュグ・ナイトの目についたことで、2パックの人生の歯車は大きく狂うことになってしまう。

ME AGAINST THE WORLD