夫婦のドロドロを「オシャレ」で目くらます、「nina’s」読者の処世術
極め付きは、特集のラストを飾る「志をシェアできるご近所友達をつくると、人の輪がどんどん広がっていく」。ウェブデザイナー/フードユニットと元カフェ店主の2人のオシャレママが出会い、作家の展示会やら読み聞かせライブやらでオシャレ友達の輪を広げながら、子どもイベントを開催するという奇跡の物語がつづられています。この子どもイベントがまた「nina’s」の権化のような内容で、手づくり酵素シロップ販売に、自然素材を使ったワークショップ、「エジプト塩」や「モロッコ胡椒」を使ったマフィンやデリ、作家さんの動く紙芝居……オシャレすぎて鼻血出ますよ。
今回の特集で、よ~くわかりました。オシャレほっこりママたちにとって、ワンマイルとは戦場であると。「私の大好きなミュージシャンが実は○○ちゃんの旦那さんの親友で」みたいな出会いが、どこに落ちてるかわからない。絶対に負けられない戦いは近所にあるのです。
■その気遣いは、オシャレに取りつかれてる夫には伝わらない
はたから見たらほっこり幸せそうに見える「nina’s」夫婦ですが、そこには血のにじむような努力がある。世の倦怠夫婦に一石を投じるページが「20年後も幸せでいたい―Happy夫婦のカタチを考える。」です。“夫を捨てたい”と日々鬱々とする「婦人公論」読者が見たら卒倒しそうなタイトルですが、どうやら本気のよう。「毎日の生活や子育てでちょっと遠ざかりがちな『夫婦』のこと、たまにはじっくり見つめてみませんか」ということで、「HAPPYな夫婦のリアル事情」「HAPPYな夫婦がやっているプチ努力」「夫婦の関係トラブルシューティング」「憧れ夫婦のHAPPY TALK」の企画が用意されていますが、HAPPYでゲシュタルト崩壊起こしそう。
「HAPPYな夫婦のリアル事情」は、「手はつなぎますか?」「キスの頻度は?」「相手に点数をつけて」などセキララな夫婦生活を聞くものですが、なんせ聞く相手が「HAPPYな夫婦」読者なので全てにおいて平均点高め。その中で「セックスをする頻度は?」だけが、「平均月2回」といい感じにリアル。どうやらHAPPYとセックスは比例しないようです。
しかし、注目は「HAPPYな夫婦がやっているプチ努力」。これ、「夫婦がやっている」と銘打っているものの、その全てが妻側の努力です。例えば「“かわいい自分”でいる」については「HAPPY夫婦であるためには、愛される妻であることが大事」という驚きのコメントが。ほかにも「冷蔵庫には常に食事を入れておく」「家をキレイに」「思いやりのある言葉遣いを心がける」……。「相手にひとりの時間をもたせる」に対する「『子どもの面倒見ているから出かけてきたら?』パパにそう言ってもらうためには、『今日の飲み会楽しんで来てね』と言えるママになることから」というコメントに至っては、もう堺雅人並みのゆがんだ笑顔でうなずくしかありません。
そして「ニナmama」が読者にアドバイスする「夫婦の関係トラブルシューティング」。「最近帰りも遅くコソコソしているような…。まさか浮気?」というお悩みに、「浮気は家庭で埋められない穴を埋めるためにしているもの。何を埋められていないかを考えて行動」って答えてる先輩ニナmama! YOUの旦那が浮気しても、そう言えるのか!?
「オシャレ」は「良妻賢母」のドロドロした部分を覆い隠し、「良妻賢母」は「オシャレ」の浮ついたイメージに説得力を与える。「nina’s」の二大命題は、こうしてお互いを補完し合いながら、女たちを「ママ」という深淵に沈めていくのですね。「nina’s」が隔月である意味を、今号ほど噛みしめたことはありません。オシャレな良妻賢母は遠きにありて思うもの、なのです。
(西澤千央)