[女性誌速攻レビュー]「婦人公論」8月7日号

「家族の絆」と「他人のはじまり」の狭間で揺れる、「婦人公論」きょうだい問題

2014/08/03 19:00

 そもそも『渡鬼』は女の現実をネチネチと描いたことで中高年層から人気を博したドラマ。「婦人公論」世代ともなれば、それぞれが家庭を持ち、“きょうだい仲良く”とばかりも言っていられない現実に直面するものです。しかしたとえ夫の悪口、姑の悪口、ご近所さんの悪口はサクサク言えても、親きょうだいの悪口を表立って言うのは憚られる。そこにはやはり“身内の恥を晒すな”という根深い呪詛があるのでしょうが、「読者アンケート 半数以上が絶縁した“争いの火種”はこれだ!」には、今まで腹に溜め込んできた罵詈雑言が満載。「父の死後、遺されたのは3600万。弟は私に300万円渡し、『供養に3000万円必要』と3300万円持っていった。そんなにかかる?」(52歳・主婦)、「母の有料老人ホームや介護費用を姉と折半する約束が、4分の1しか出してくれない。介護のため離職した私は、食料も買えないほどの超極貧生活に」(65歳・無職)など穏やかではない投稿が。これらを見る限り、きょうだい間の争いは「まとも」なほうが負けなのだとつくづく感じてしまいますね……。

■長男教のなれの果て

 外には言えない、だけど誰かに言わなきゃ気が済まない……それを若者たちがSNSにぶつけるように、中高年は「婦人公論」にぶつける。アンケートや各種読者手記を見ると、まるで某掲示板をのぞき見ているような感覚に襲われます。きょうだいにおける正義とは、社会のそれとは全然別なところにあるのかもしれません。

 その深い闇にハマってしまったのが、漫画家の江川達也。実の兄との15年にもわたる裁判はなぜ起きたのか。「血を分けた兄と泥沼の裁判を続ける理由」では、家族・きょうだい・長男という名のもとにモンスター化する人間の恐ろしさ、お金の怖さを淡々と語っています。

 長男が最も大切にされる古い価値観が残る地域で、蝶よ花よと育てられた兄と、なにも欲しがらず絵だけを描いていた弟。小さい頃から絶対的な権力を持ち、自己愛だけが異常に肥大した兄は社会に出てそのギャップに打ちのめされます。そしてその怒りの矛先は家族へ。江川は漫画で稼いだ金のほとんどを兄に吸い取られていったと言います。こんなのおかしいと自分ではわかっていても、「がんでやせ細った母の顔を見ていると断り切れなくて」と、江川もまた家族愛という神話にズルズルと引きずり込まれていったのでしょうか。「母は可哀想な人でした。そして、優しく、慈しみを持ち、努力家で、向学心があり、和を大事にしていました」という言葉に、恐ろしく冷たい悲しみと静かな怒りを感じずにはいられませんでした。溺愛される兄の横で放っておかれた弟から発せられる「母への愛」。いっそ江川が稼がない弟だったなら……月並みな言葉ですが、あってもなくてもお金は怖いです。そして身内という血のつながりも。


 三本の矢なんて幻想、きょうだいなんて百害あって一利なしなのか……と思っていたら「読者体験手記 一人っ子ゆえの苦しみ」なんてページもありまして、出口のない迷宮状態。幼い頃、自分にくっついていたかわいい妹や弟、いろいろなことを教えてくれた頼もしい兄や姉、そんな良き頃の思い出がお互いを1人の別な人間と認めづらくしているような気もします。骨肉の争いを避け、心穏やかな老後を迎えるためにも、皆様どうかきょうだい間の金の貸し借りだけにはお気をつけください。
(西澤千央)

最終更新:2014/08/03 19:00
婦人公論 2014年 8/7号 [雑誌]
きょうだいは基本うまくいかないものだと偉い人に明言してほしい!