社会問題を語る女性ファッション誌「VERY」が、それでも夫に頭が上がらない理由
■イケダンをやめた男の本音とは……
「イクメン」「イケダン」そんな言葉もあったわね……と、懐かしくなってしまうほど、現在の「VERY」には、「イクメン」「イケダン」という言葉はそうそう出てきません。「イケダン・プレジデント」というタイトルで、バリバリに働きながらも、家庭とのバランスもばっちりなイケダンが登場していた連載も、終わってしまいました。一般のイケダンが登場するページがなくなったのは、読者が「イケダンなんて夢の男」と気づいたのか、それとも「男をイケダンと持ち上げたところで、返ってくるのはドヤ顔でしかなかった」なんて経験でもあったのか……。
そんな中、今月号には「それでも子どもたちへの想い……」というイケダンの特集が。サブタイトルは「イケダンを卒業したオトコたち」です。俳優・脚本家・演出家の宅間孝行さん、歌人の枡野浩一さん、俳優の大浦龍宇一さんといった、子どもをもうけた後に離婚した3人にインタビューをして、パパとしての心境を聞くというなかなかにヘビーな企画。
その中で、イケダンに関して宅間さんから興味深い意見が。宅間さんによると、「子育てする男こそが男の正しいあり方であるという世の中の風潮も怖いです」とのこと。それは、朝から晩まで働いて帰ってくる父親もいれば、主夫もいるし、パパにも多様性があるという理由からです。確かに、「VERY」妻が専業主婦をしていられるとしたら、その旦那さんはかなりの激務のはず。ワークライフバランスなんて「果てない夢」という生活の人もいるでしょう。それは、「妻」と一言で言っても、フルタイムもパートタイムも専業もいるのと同じ状況かもしれません。ある意味、全員がイケダンになれというのは、無理な話なんだなと、そしてそんな状況が、「VERY」からリアルなイケダンが見られなくなった理由かもしれないと思うのでした。
■おとぎ話としか思えない「イケダン小説」
イケダンが誌面から姿を消した代わりに、イケダンをテーマにした辻村深月さんの小説『クローバー・ナイト』が連載中です。
この小説のイケダンがこれまでと違うのは、旧来の「仕事バリバリ家事もバリバリ」なイケダンではなく、9時~5時勤務の会計事務所に働き、ミセスCEOである妻よりも時間的に余裕のあるイケダンなのです。これだけでも、旧来のイケダン像からは、現実的になってきたようにも感じます。
それにしても、この『クローバー・ナイト』のイケダン・裕は、名前もどこか女性的ですし、一般的に“女性らしい”といわれそうな細やかな気遣いを見せるんです。「保育園だなんてかわいそうじゃない?」と言う自分の母に対し、妻が矢面に立たないよう、今の保育園の状況を少しずつ話す……なんてシーンはまさにそうです。また、妻の方が目立つ仕事をして稼ぎがあっても、決してプライドを失わない裕には、思わず「そんな旦那さんがどこかにいるの?」と言いたくなります。できすぎた話に、まるで「現代のおとぎ話」を見ているような気持ちになってしまいました。この小説を読んで、「VERY」妻は「こんな旦那さん素敵!」と思うのか、それとも「こんな旦那いねーよ!」と不貞腐れるのか、果たしてどっちなのでしょうか。
(芹沢芳子)