芸能
イケメンドラマ特捜部【ジャニーズ&イケメン俳優】

『弱くても勝てます』が浮き上がらせた、“等身大”を演じる嵐・二宮和也に迫る課題

2014/06/18 16:00
『弱くても勝てます~青志先生とへっぽこ高校球児の野望~』(日本テレビ系)

 『弱くても勝てます~青志先生とへっぽこ高校球児の野望~』(日本テレビ系)は生徒のほとんどが東大を目指す進学校・小田原城徳高校の弱小野球部が、甲子園を目指す姿を描いた異色の青春ドラマだ。主演は『フリーター、家を買う。』(フジテレビ系)以来、3年半ぶりの連ドラとなる嵐の二宮和也。

 二宮が演じるのは、勤務していた研究所が1年間休業するため、生物の教師として母校に赴任することとなった田茂青志。かつて野球で挫折した青志は、自分と似た境遇にいる弱小野球部の生徒たちに「弱くても、勝てる」ことを証明するため、野球部の監督になる。

 本作の原案となった高橋秀実の『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』(新潮社)は、進学校でまともな練習時間が取れない開成高校野球部が、どのような戦略で甲子園出場を目指したのかを描いたノンフィクションだ。そのため、開成高校野球部が行った練習や戦略を作中に盛り込むことで、実話を元にしたドキュメンタリータッチの作品になるのかと思っていたのだが、ドラマ自体は生徒たちの物語を描くことに力点を置いており、野球の面白さはなかなか描かれない。確かに同書には、エキセントリックな監督と、消極的でいつも怒られている選手たちの関係も描かれていて、それも隠れた魅力だといえる。特に本作は、福士蒼汰、本郷奏多、中島裕翔(Hey!Say!JUMP)といった人気若手俳優が多数出演しているため、イケメンドラマに仕立てる選択はあながち間違っていない。進学校の生徒のわりには、小学生並みに幼い生徒たちの情けない姿も、見方によってはかわいい萌え要素だといえる。

 しかし、その肝心の生徒たちの物語は、驚くほど盛り上がらない。おそらく『ROOKIES』(TBS系)のような熱血野球ドラマに対するアンチテーゼとして、ユルふわなオフビート感を前面に押し出したかったのだろう。その意味で実は新しいことをやろうとしていたのだが、それが裏目に出ているように感じた。

 中でも最大の問題は、城徳高校野球部の活動が、進学校の道楽にしか見えないため、厳しい練習に取り組んでいるライバル校の堂東学院と対比した時に、あまり応援したいと思えないことだ。

 第1話、堂東学院との親善試合で城徳は、一回の表に53点を取られてコールドゲームで大敗するが、負けた城徳よりも、レベルの低い野球に付き合わされた堂東学院の生徒たちの方が不憫で仕方がなかった。第7話で、堂東学院のエース・吉永藤一郎(宮里駿)が、俺たちがもし東大に行きたいと言ったら、お前どう思うんだ? と、城徳の生徒に苛立ちをぶつけるのだが、こういった批判場面を序盤に配置して、「なぜ、自分たちは野球をやるのか」というテーマを掘り下げていく展開にすれば、野球哲学をめぐる戦いというテーマが深まったのにと、残念に思う。

とはいえ、第8話では、青志が提唱する、守備を捨てて大量得点で勝利する「ドサクサ野球」や、バッティング練習によって選手たちがバットの振り方のコツを見つけていく過程が面白く描かれており、第9~10話での試合場面も見応えのあるものだった。その意味で後半は持ち直したといえるが、この野球の面白さが、序盤でしっかりと描けていれば、もっと面白くできたはずなのにと、歯がゆく感じた。

 初の教師役を演じた二宮は、一見クールだが、生徒たちのことを考えている青志先生を的確に演じていたと思う。しかし、二宮が大人の教師を演じていること自体に据わりの悪さを感じるのも事実だ。福士たち生徒役の俳優と並んだ時に、童顔で教師に見えないという構図は、あえて狙ったものかもしれないが、もっと年上の役者が演じた方がドラマとしてはわかりやすかったかもしれない。

 これは嵐のメンバー全員にいえることだが、今の二宮は30代になったことで、若者ぶるのはそろそろ苦しくなる一方、おじさんになるには、まだまだ子どもっぽさが残っているという中途半端な立ち位置にいる。漫画のキャラクターを得意とする大野智や、恋愛ドラマの王子様を得意とする松本潤に対し、二宮が今までドラマで演じてきた役は等身大の青年が多かっただけに、今後、加齢と共に居場所がなくなるのではないかと心配になる。

 しかし一方で、今のドラマが、リアルな30代男性のライフスタイルをちゃんと描けているのだろうか、という問題もある。『嵐にしやがれ』(日本テレビ系)等のバラエティにおける二宮の性格の悪さ全開のチンピラっぷりは、有吉弘行に匹敵する面白さで、実に生き生きとしている。もしかしたら30代になっても、昔と変わらずにグダグダとつるんでいる嵐の方が、今の時代にマッチしているのかもしれない。対して、『弱くても勝てます』の二宮は、なまじ大人として振る舞おうとするあまり、彼の中にある暴力的なチンピラ性が抑制されているように見えるのが残念だ。もっとデタラメな暴君として振る舞った方が、二宮の魅力は引き立ったのではないかと思う。
(成馬零一)

最終更新:2014/06/18 16:00
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