おデブ“だから”イケメンに愛される!? 『ぽちゃまに』に見る、努力を捨てたヒロイン像
そこまでして「自己肯定」する時代なのか。今までの少女マンガの主人公は、『キャンディ・キャンディ』(講談社)のキャンディや『花より男子』(集英社)のつくしみたいに、社会と戦っている女の代表というイメージがあった。外見や生まれにコンプレックスがあったって、乗り越えられた。それは、“努力”を評価してくれる人がいたからだ。でも、『ぽちゃまに』では、田上くんにとっての紬の価値は、太っていること。現代の人たちにとって、コンプレックスを気にせずに、いつでも笑っていることは、何かを犠牲にする「努力だ」と言うほど大変なことなのだろうか。
自分を肯定するのは、誰にとっても難しい。何かに向かって死ぬほど頑張って、結果が得られなくて、今までの自分の苦労は何だったんだと、頭を抱えることなんかしょっちゅうあるだろう。だけど、ふとした時に、努力の結晶が見えて、救われることがある。そういう時に初めて、ほんの少し自分を認めてあげてもいいな、と思える。それが自己肯定の過程なんじゃないだろうか。両親に慰められただけで、自分の意志薄弱を棚に上げておデブを肯定し、イケメンの彼氏ができた女に対して思うのは、「希少な趣味の人に出会えて良かったね」だけである。
長く続く不況のせいで、将来に希望が持てない世代や、バブルという強気の時代を知らない人たちには、こういう寛容で優しい作品が必要だってことなんだろうか。しかし、筆者は、努力なくして明るい未来はないんだよ! と言いたくなってしまう。
その上、田上くんと付き合ってから、紬はますます肥えたらしい。「主人公を男性キャラから肯定してもらう」のが少女マンガの基本とはいえ、不摂生による過剰な体重増加は生活習慣病のリスクを高めるという話じゃないですか。「ほっこりラブコメ」と銘打っているけれど、ほっこりどころか紬の健康が気になって仕方がない。病気になった紬を、田上くんがそれでも愛し、支え続けるなんて話になるなら、それこそ少女マンガ的には本望でしょうが。
■メイ作判定
名作:メイ作=8:2
和久井香菜子(わくい・かなこ)
ライター・イラストレーター、少女漫画研究家。『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、語学テキストやテニス雑誌、ビジネス本まで幅広いジャンルで書き散らす。街で見かけたおかしな英文から英語を学ぶ「Henglish」主宰。