モテ女子のテクを「コワ~イ」と一刀両断、保田圭『美ブス婚』のしたたかな上から目線
ブスと言って笑われているが、本当は自分に自信がある。保田の複雑なプライドは、婚活においても明らかになる。保田は「男の人は美人好きが多いです(笑)」と、自らを「非モテ女子」としてその苦労を語る一方で、生まれつき容姿に恵まれた「モテ女子」が次々と狙った男を虜にしていく様子をつづり、「非モテ女子」がどんなに努力をしても、格差はそう簡単に埋まらないことを嘆く。そして、このような「不条理」を経験した保田の憎悪は、女の顔しか見ない男ではなく、モテ女子に向かっていく。
保田は、モテ女子は「見習うべき」存在としているが、紹介されたエピソードには、モテ女子がいかに“性悪か”を印象づけるものばかりである。例えば、食事代を支払いたくないがために、会計目的で男を呼びだす。少し気に入っている男に、わざと手作り弁当を食べさせて、本命の男の嫉妬を煽る。ホームパーティーに遅刻してきたのに、ほかの人が作った料理をさも自分が作ったかのように持っていく。酔っぱらって醜態を見せた翌日には、男性に宛先を間違えたという体できちんとしたビジネスメールを送り、日頃は有能であることをアピールする……などなど。
保田に言わせると、モテ女子とは「誰にでもいい顔をする」「虎視眈眈」「ちゃっかり」「画策」に長けた存在であり、「自分はそんなあざとい真似したくないから、モテない」「できないのではなく、あえてやらない」と言外にほのめかす。なっちへの対抗心が消せないのと同様に、ここでも保田は「モテ女子」に敗北を認めたくないのだ。
本書は婚活本でありながら、モテ女子性悪エピソードに多くのページを割いているが、これは保田の婚活の「意味」を表しているように思う。8人中8番目と言われ、ブスキャラをやるより仕方がなかったが、それは本意ではない。これを挽回するためには、世間が驚くような素敵な男性に選ばれる必要がある。保田にとって結婚とは、「モテ女子に勝つため」のものであり、「モテ女子」とはなっちをはじめとしたモーニング娘。のメンバーたちも含まれる。「江戸の敵を長崎で討つ」という、意外な場所や筋違いなことで昔の恨みを晴らすという意味のことわざがあるが、保田の婚活はまさにこれで、モーニング娘。時代の雪辱を果たすのが、「結婚」だったのである。
本書の最後に書かれたエピソードを読むと、保田はなっちにやっと一矢報いることができたことがわかる。夫のレストランになっちが来店した際、夫が「安倍さん、いいね~」と褒めちぎったそうだ。これまでも同じような体験をしてきただろうが、結婚している限り、夫をなっちに持っていかれることはない。「モテ女子の底力、まざまざと見せつけられた夜でした(笑)」と上から目線と取れる文章でしめくくっていたが、なっちに勝てたと思えた瞬間は、これが初めてだったのではなかろうか。やっとの思いで「雪辱」を果たした保田の末長い幸せを願うばかりである。
(仁科友里)